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美術・オタク・大衆

またも唐突ですが、集中講義でいらしていた丹生谷貴志先生が、授業後に学生の質問に答えてですが、こんなことを言っていました。
「60年代までは話題の映画はチェックするとか、普段小説なんか読まなくても芥川賞だけは買って読むとか、そういうのがあったからね。今は全然ない。興味のないことは本当に何にも知らない」
「皆が美術に興味ないって言うけどお互い様で、お前も映画に興味ないだろって」
確かにそうかも知れません。一体何が変わったのでしょうか。

岡田斗司夫は『オタクはすでに死んでいる』(新潮新書)で、同様の話を「オタク」の世界について言っていました。それをまとめると以下のようになると思います。
1.岡田氏の頃のオタクは、漫画やらアニメやらミリタリーやら、色んなもののオタクが集まってできた「民族」であり、オタク同士付き合ってやっていくため、「自分は漫画オタクだけど、軍隊のことも最低限知っておかないといけない」といった「共通の教養」を備えていた。
2.「萌え」が入ってきて、自分で萌えたと思えば誰でもオタクになれるようになったため、オタク人口は大幅に増えたが、「共通の教養」は成り立たなくなり、「民族としてのオタク」は崩壊した。
1の「『共通の教養』を備えたオタク」なるものが1つの理想でなくて本当に存在したのかも疑問はありますし、実際「オタク」という何らかの一体感を持った集団が崩壊したというのが事実だとしても、その原因が「萌え」かは話が別でしょう。ただ、ここで言われている過程は「大衆化」と言われるものであることは確認しておきます。
「大衆化」について説明するには、「大衆」と言えばまず名前の挙がる思想家の言葉を引用しておきましょう。

6世紀にヨーロッパの歴史が始まってから1800年にいたるまで――したがって十二世紀間にヨーロッパの人口は一億八千万を越えたことは一度もなかった。ところが、1800年から1914年の間に――つまり1世紀余の間に――ヨーロッパの人口は一億八千万からいっきょに四億六千万! に増大したのである。
…この異常な速度はとりも直さず、その一人一人を伝統的な文化で満たすことが困難なほどの大量の人間また人間が、どっと歴史上に吐き出されたことを意味している…
…大衆は、より強力に生きるための道具は与えられたが、偉大なる歴史的使命に対する感受性は授けられなかった。彼らに対して、誇りと近代的手段の力がせっかちに植えつけられたが、精神は授けられなかった。だからこそ、大衆は精神といっさい関係をもとうとしないし、新世代は、この世界が、あたかも過去の痕跡をもたず、昔からの複雑な問題をもたない楽園であるかのように考え、自分たちの手に世界の支配権をとろうとしたのである。
 (オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』神吉敬三訳、ちくま学芸文庫、pp68-70)



「大学の進学率が上がって、出来の悪いのが入って来るようになったから、教育の質が落ちた(あるいは教育が機能しなくなった)」という、当今聞く「大学の大衆化」論も基本は同じです。

しかし、私の身の回りに戻ってみると、私の同級生の子が『北斗の拳』を読んでいないと言った後で、こう言うのを聞きました。
「こういう有名作品は読んどかないととは思うけど、なかなか手が回らなくて…」
それこそ知ってたからって何になる訳でもない、自分の好きなものだけ楽しんでたらいけないかと言うと何も悪いことはない、漫画の話ですよ。もちろん一例だけでは何とも言えませんが、ネットの掲示板の上で「今のゆとり世代はドラゴンボールも知らないもんな(プゲラ」といった罵倒が飛ぶのも「共通に知っておかないといけないことがある」という認識があるから成り立つのであって、今の人達が「この世界が、あたかも過去の痕跡をもた」ないかのように、「自分が興味のないことは何も知らなくていい」と思っているかと言うと、そう一概に言えるとも思えないのです。
とは言え、「共通に知っておかないといけないことがある」と思ってはいても、「実際にそれを読む」ことには至っていない訳ですし、漫画の古典作品の知識は必要と思っても軍事や鉄道までチェックする必要は感じていないかも知れませんから、「求められる知識」の範囲や、それに対する取り組み方に何も変わりがないとは言えない訳ですが。
これにも当然複雑な要因が絡み合っているとは思いますが、1つには「求められる知識」の範囲がより広く感じられるようになった(実際に「求められる知識が増えた」とは限りません)ので、手が回らず、あまり遠くはそもそも最初から目に入らず、チェックする必要も感じない、というのはあると思います。

これを一言で言うと「忙しくなった」のではないでしょうか。「現代社会は忙しくなった」なんて、実感と説得力はあるものの(長々と書いた挙句)あまりにしょうもない結論ですが、極めて重大な変化だとも思えます。なぜ忙しくなったのかと問えば、また難しい議論になるでしょうが。
                           (芸術学2年 T.Y.)

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