オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
結局、経済に何が起こっているのか
ただ、TPP参加を主張するならば、「悪くしてもよもや死ぬことはあるまい」といった子供染みた希望的観測で話をしているのではないことをまず証立てていただきたいと、そう言っているのです。
「条件が悪くならないよう、これから交渉するのだ」という向きには、「交渉のテーブルについてみて、状況が悪そうだったら後から抜ける」ことが可能なほど甘いものかどうか、まずそれをはっきりさせておいて欲しいところです。
「いずれにせよ今のままでは日本の産業の未来は暗い」という主張もありますが、ならば、どう「未来が暗く」、どうすべきなのか、個々の産業について考えるべきでしょう。グローバル経済に飛び込めば何とか…といういい加減な考えは通りません。
そもそも、もう再三言ってきたことですが、グローバリゼーションを進めている中でリーマンショックが起こって、「100年に一度の危機」ひょっとすると「資本主義始まって以来の危機」と騒がれました。
現在の経済停滞と言われる事柄も、それと関係しています。
「資本主義が始まって以来の前提が揺らいでいるかも知れない」と言われている時に今までのやり方で生じてきた危機を脱却するに当たって、「今まで通りのグローバル資本主義をもっと押し進めるべき」という主張は、どこから出て来るのでしょうか。
もちろん、「今の道を突き進む」べきか、「方向性を考え直す」べきか、どちらが正しかったかは後になってみないと分かりません。
「“100年に一度の危機”は間違いで、リーマンショックなど大したことはなかった」と自信を持って言われるのなら、それを否定する資格も能力も私にはありません。
それはそうと、関連してもう一つ、思い出されることがあります。
「日本の産業は輸出に頼っているから、TPPに参加して輸出をさらに拡大していくべき」という主張も見られました。
そもそも、結構以前から「日本の産業は輸出に頼っているから、円高は痛手だ」という主張を見てきました。
しかし、そもそも本当でしょうか。
日本のGDPに占める輸出の割合は、せいぜい14%とも言われますが。
何か長期的な情報操作の臭いがしないでもありません。
というわけで、少々円高の話です。
「でもひとつ疑問なんだけど……よくニュースで、円高が悲惨みたいに言われてるでしょ? それって日本円が強くなりすぎて、日本の通貨の価値が上がってるってことよね? だったら良いことのはずなのに、どうしてニュースで大問題だって騒がれてるわけ?」
沙織の指摘はもっともだった。俺は努めて優しく口にする。
「うーん、難しい問題だな。日本は輸出産業が強いから、円高になれば輸出が難しくなる。輸出企業はピンチだ。輸出産業の強さが国の工業力を測るバロメーターでもあるから、長期的な視点で見れば、国の産業が衰退してしまう可能性は大きくなる。でも国家全体として考えれば、マイナス面ばかりじゃない。輸出企業は潤うし、あらゆる戦略物資が安く仕入れられる」
沙織が話についてきていることを確認し、俺は続けていく。
「通貨が暴落して破綻した国は少なくないけど、通貨高で滅亡することはない。通貨の高さは、国の強さなんだ。だから円高が騒がれるのは、産業構造が大きく変化してしまうことへの危機感じゃないかな。たしかに輸出産業が弱体化していく恐怖感はあるだろう。でも日本の通貨高は、日本経済が強いということの表れでもあるから、あながち悪いというわけでもないんだよ」
(至道流星『羽月莉音の帝国』7巻、小学館、2011、p.222)
ただし、現在の円高に関しては、別の結構説得力ある説明もありました。
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本書によれば、リーマンショック以降の世界的な不況の中で、日本はデフレである。デフレということは将来的に円の購買力が上がるということなので、円が買われている。それゆえに円高になっている――というわけです。
しかし、デフレは不況を伴うので、好ましくありません。
ただ、岩田氏も円高の弊害に関してはやはり「輸出産業が打撃を受け、輸入産業と競合する国内産業も不利になる」旨のことを言っていますが、他方で通貨の強さゆえの利点をも考えると、ここは切り離して考えることも可能かも知れません。
つまり、円高自体には利点もあるとしても、それがデフレの「副産物」であるのなら、「原因」のデフレを取り除くことが優先される、と。
以上です。
(芸術学4年T.Y.)
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