古典的ロボットドラマ――『雨の日のアイリス』

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※ 立て続けにライトノベルの話ですが、いささかネガティヴな評価になることをご了承下さい。

雨の日のアイリス (電撃文庫)雨の日のアイリス (電撃文庫)
(2011/05/10)
松山 剛

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まず、これはロボット物です。
主人公は少女の姿のロボット、アイリス・レイン・アンヴレラ(ロボットなので厳密には性別はない、ということと関連してか、一人称は「僕」)。ロボットの専門家であるウェンディ・フォウ・アンヴレラ博士と二人暮らしで、家事を切り盛りする家政婦ロボットです。
序盤はひたすら博士のことが大好きなアイリスと、親切な博士の姿が描かれますが、博士が仕事中の事故で急死してから激しく事態は動き出します。
アイリスはショックでしばし呆然として過ごし、自殺しかけたりもしますが、やがて「持ち主のいないロボット」としてロボット管理局に引き取られ、解体処分されてしまいます。
そして、AIが売り払われた結果、変わり果てた姿で廃物処理の労働に従事することになります。
その現場で女性型ロボットのリリス、軍事用ロボットのボルコフと仲良くなるのですが、ここでも仕事が終われば処分されると聞き、逃亡を企てることに……

こう書くと古典的なロボットSFみたいですが、まあ実際にそうなんですね。
確かにラストまで含めて、感動的な話ではあります。
しかし気になるのは…

 本作はロボットが主人公です。そもそも『ロボット』という言葉は、チェコ語で『強制労働』を意味する『robota(ロボータ)』が語源だそうです。人間のやりたがらない労働を肩代わりする存在としてのロボット。血の通わぬ、痛みを感じぬ、物言わぬ便利な道具としての存在――私が『ロボット』という言葉から想像するイメージはそういうものです。このロボットを、もっと『人間らしい存在』として書いてみたら面白いだろうな……と思い立ち、どうにか自分なりに仕上げてみました。
 (松山剛『雨の日のアイリス』「あとがき」、アスキー・メディアワークス、2011、p.298)


このような意図はおおむね成功しているだろう、とは思います。
しかし、カレル・チャペックが「ロボット」という語を使用した当時からほとんど変わらぬこの「ロボット」イメージはどうなんでしょうか。強制労働に従事させられた挙句、人間に反抗するところもそのままです(全編、あくまで人間的なロボット視点であり、また逃亡するだけで人間を攻撃することを目標とするわけではないのがポイントとは言えますが)。
『鉄腕アトム』を生んだこの国で。

考えてみると、ライトノベルにロボット物はあまりないという気はします(私の知る限り、ですが)。
しかしそれを括弧に入れてみると、SFとしてはきわめてありきたりです。

鉄人のような軍事用ロボットも、
雨の日のアイリス(ボルコフ)
 (同書、p.5)

ポンコツボディのロボットも、
雨の日のアイリス(ポンコツボディ)
 (同書、p.104)

いかにもステロタイプなイメージです(イラストは原文の描写に忠実です)。

もちろん、ありきたりな話を感動的に描く筆力はあるのですが。

ここであらためて自分でも思うのですが、まあライトノベルに何を求めているかの問題ですね。

私は以前、『涼宮ハルヒ』シリーズについて、たんに「ベタな萌え要素を満載した作品」といった見方をすることは、『ハルヒ』という作品の持つ根本的な「新しさ」を見損なっているのではないか、と問いました。
確かに、ライトノベルというのは「お約束」とも言われる様々な定型が支配していて、読み手もそれに沿った読みを求められる、ある意味で縛りのきつい世界です。
ですが(だからこそ)、筋立てそのものは一見ありがちで、既成の定型を表す言葉で「言おうと思えば言えてしまう」作品に、何か「既存の言葉では語りきれず」、読み方と語る言葉を更新することを求めるものを感じることがあるのです。
例えば「萌え」一つ取っても、そうでなければ、なぜしばしば新しい「萌えのカテゴリー(萌え要素/萌え属性)」を表す言葉が新たに生まれる必要があるのでしょうか。

私は少なからずそういう「新しさ」あるいは「ラジカルさ」を期待してライトノベルを読んでおり、そして本作はそういう期待に応えるものではなかった、ということです。
ベタで泣ける話を求めるなら薦められる、というところですね。

 ―――

実は、『このライトノベルがすごい!』の2012年号がそろそろ発売なのですが、ネタバレ情報によると、この『雨の日のアイリス』がランキング上位に入ったというのです。

このライトノベルがすごい! 2012このライトノベルがすごい! 2012
(2011/11/19)
『このライトノベルがすごい!』編集部

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だからこそ、このタイミングで書くとランキングに対抗しているようで大人気ないという気もしましたが…まあ、そこはそれ。
単巻作品がランク入り、というのも珍しいことですが、今年は全体的に結構変わった事態になっているようです。
だからランク入り作品を悪く言いたい、というわけではありませんが、こういうのが評価されているんだな、とあらためて思うところはあります。
                           (芸術学4年T.Y.)
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