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キレないヒーロー

昨日、風邪で休むと書いたところ、普段よりもコメントを貰ってしまいました。
ひどく吐き気がしたので、昨夜はほとんど物を食べていません。その点、今日は少しは食べても大丈夫そうな感じになってきました。まだ万全には程遠いですが。

 ~~~

元々の仮面ライダーは孤高のヒーローでした。つまり(ある程度の仲間はいるとは言え)、一通りのことは自分でこなせる人物ではなければならなったのです。
現代のライダーは警察機構と協力していたり、普段はダメ人間だったり色々なケースがありますが、しかし『フォーゼ』の如月弦太郎のようにまったくの熱血バカで、敵の正体を調べるのを「俺には無理だ!」と言って仲間に頭を下げるタイプは、まだいませんでした。

弦太郎の取り柄はというと……まず喧嘩は強いですね(調査をしようとしてガラの悪い連中と喧嘩になるシーンが何度かあり)。肉体が変化したり、自分以外のものの力に依存するタイプの変身なら、「変身前は弱い」というのもありですが、フォーゼは単なる強化服で着用者の身体への負担も大きいらしく、とりあえず体力は必要という設定です。
そして何より「俺はこの学園の全員と友達になる!」と言ってのけ、癖の強い相手も受け入れようとする包容力です。
フォーゼは40種(予定)のアストロスイッチで「モジュール」と呼ばれる様々な武装を使用できるのですが、使いにくいモジュールも「世の中に無駄なものなんてねえ!」と言って、使いこなすため密かに努力していましたし、一度は自分を裏切った相手でさえ、「仮面ライダー部」の仲間として受け入れました。
これもまた、他方では彼が、頭を下げて仲間を頼ることのできる人間だからです。

ここから、『ONE PIECE』(尾田栄一郎、『週刊少年ジャンプ』連載)の主人公ルフィの「おれは仲間に助けてもらわねえと生きていけねえ自信がある!」という台詞を連想することも難しくないでしょう。
その意味で弦太郎は非常に「少年漫画の主人公的なキャラ」です。

これに対し、少年漫画ならありそうですが、ここまで『フォーゼ』には見られなかった場面は何か――まず思い当たるのは、敵の非道に対して「てめえら許さねえ!」と怒る場面ですね。
敵もまた学園の生徒ですから、「全員と友達になる」ことを標榜する弦太郎としては、相手を否定してしまうわけではいきません。
もっとも今までのところ、ゾディアーツとなっていた生徒はその後、後遺症で入院したりしているようですし、敵を積極的に「受け入れる」という描写もありませんが。ここまでの展開では仮面ライダー部の仲間たちとの関係がメインになっていることもあり、敵の方はあまり感情を向けられる相手になっていませんね。

※ なお『仮面ライダーW』では、敵(ドーパント)を倒しても、あくまで人間をドーパント化させる「ガイアメモリ」を破壊するだけで、ドーパント化していた人間は無事という設定でした。
『フォーゼ』の場合、「ゾディアーツスイッチ」使用者は最初、ゾディアーツに「変身」しており、また戻ることもできるのですが、「ラストワン」の音声とともにゾディアーツスイッチが変化すると、使用者の身体からゾディアーツが「分離」し、ゾディアーツの方に意識が移って、人間本体は寝たきりになってしまいます。
いずれにせよ、怪人になった人間自身は救われるという設定は同じですが、『フォーゼ』の場合、「ラストワン」以前の段階ではゾディアーツを「倒す」ことはできないのか、それは現段階では不明です。


遡ると11年前、『仮面ライダークウガ』に象徴的な場面がありました。
高校生を相手に残虐な殺しを行うゴ・ジャラジ・ダを相手に、普段は温厚なクウガ=五代雄介も怒りが爆発、馬乗りになって一方的に殴り続けた挙句に剣を突き立てて倒す、という展開になりました。しかしその時、雄介はクウガの最強形態・アルティメットフォームの姿を幻視します。
実は、「聖なる泉(=優しい心)」が涸れ果てた時、「凄まじき戦士」=アルティメットフォームが出現するのであり、その時クウガはラスボスであるン・ダグバ・ゼバと「等しくなる」というのです。
結局雄介は「伝説を塗り替え」、「聖なる泉」を涸れ果てさせることなくアルティメットフォームに変身して、ダグバを倒します。

この放送時期がちょうど少年法改正案が国会に提出された時期で、しかもジャラジの人間体が少年だったこともあって、白倉伸一郎氏は(同時期の『ウルトラマンコスモス』も参照しながら)言いました。

 一九六〇年代中盤――。
 映像作品の歴史が示すように、この時期を境に、都市生活の秩序を最優先する管理主義が世界的に幅をきかせはじめ、息苦しいような時代となった。そんななかで、事実無根の「少年凶悪犯罪の増加」が大々的に報じられ、さも管理体制にまだ不備があるかのように語られる。
 しかし、こうした管理下におかれた少年たちは、全般に「キレて」などいない。かれらにキレる自由など与えられていない。
 むしろ、先手を打ってキレだしたのは、社会の側であり、ヒーローたちの側ではないのだろうか。
 (白倉伸一郎『ヒーローと正義』、子どもの未来社、2004、pp.163-164)


先日も引いた宇野常寛氏の近著からも引いてみましょうか。

(……)五代雄介=クウガは劇中で理想の青年として描かれ正義を執行して「敵」を排除するだけではなく、周囲の若者たち――家出した小学生から、仕事一辺倒の母親を許せない少女まで――の教師的な役割を負うことになる。仮面ライダーはその手を汚し、暴力を引き受ける高潔さをもつだけではなく、それゆえに制作者の考える市民道徳の体現者として描かれることになる。(……)
 この自覚的な態度表明にはおそらく〔プロデューサーの〕高寺〔成紀〕が60年代、70年代のヒーロー番組ファンコミュニティの出身であることが影響している。当時のファンコミュニティには、幼児から児童を主要な消費者とするヒーロー番組こそが消費社会化で前提化した相対主義に対するアンチテーゼを打ち出すべきであり、あえて勧善懲悪のファンタジィに徹するべきであるというイデオロギーがある程度の存在感を放っていた。
 (宇野常寛『リトル・ピープルの時代』、幻冬舎、2011、pp.249-250)


こうした解釈は正しいでしょう。
しかし同時に、ヒーローもまた暴力であり、究極的にはただ殺戮を楽しむだけのダグバと「等しくなる」ことを描き出したのもまた『クウガ』でした。
現代だからこそ「あえて」勧善懲悪を描いた『クウガ』の後、翌年の『アギト』からヒーロー像の解体が始まったというのが、宇野氏に基本的な主張です。が、ある意味では、現代において「ヒーロー」を描くことを徹底しようとした『クウガ』だからこそ、「ヒーロー像の解体」に先鞭を付けることもできたのです。

もちろん、敵に怒りをぶつけることを否定し、味方を包摂することを前面に出すとしても、事実としては敵を排除していることに変わりはないのだから、取り繕いにすぎないと言えば、その通りです。
しかし、せめて敵への「攻撃」よりも弱者の「ケア」や「包摂」を前面に出していこうという意志が存在していることは、覚えておく価値があります。

そして、この流れは今まで受け継がれ、ヒーローが敵に怒りをぶつけている印象はここ10年、あまりありません。
そもそも敵を非人格的な、感情の対象とはならないようなものとして描いている作品も多いのですが、それだけではありません。
たとえば『仮面ライダーW』の場合、基本的には人々はガイアメモリに「精神を汚染」されて犯罪に走るわけですが、人間である以上外道も存在します。
そもそも街にガイアメモリを流通させている園咲家に関しては「家族」を巡る複雑な設定がり、むしろいかにも「外道」として描かれていたのはウェザー・ドーパントこと井坂深紅郎でしょう。彼は仮面ライダーアクセル・照井竜の家族を殺した敵でもあります。
しかし、敵として井坂を狙い続けていた照井竜は、最後は憎しみを捨て、一人の少女を守るために井坂と戦って倒すのです。

『フォーゼ』の場合、敵の黒幕が登場した時どうなるかは、まだ分かりませんが…
『フォーゼ』で初めてメインライターを務めることになった中島かずき氏は、『W』でも少し脚本として参加しており、『W』のメインライターだった三条陸氏も『フォーゼ』の脚本に参加しているので、今度はどうなるのか、色々と楽しみです。
                           (芸術学4年T.Y.)

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テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

こんにちは^^

いつも楽しく拝見させていただいています。

私は横文字やむつかしい言葉には弱いのですが(笑

なるほど~、と考えさせられます^^

あとやっぱり面白いです^^


くれぐれもお体、無理をなさらないようにしてください^^

心身万端でないとうまく物を考えられないですもんね!


これからも楽しみにしています^^


では~

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

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