オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
あるいは新ジャンルか――鉄道ライトノベル『僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない』
僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない (ガガガ文庫) (2011/11/18) 豊田 巧 商品詳細を見る |
最近急増している、長くて妙なタイトルの一つ。
時刻表→鉄道オタクという連想が働き、かつライトノベルに慣れた方ならこのタイトルを見た時点で「主人公(男)が鉄道オタクの美少女たちに鉄道の世界に引っ張り込まれる話かな」と察するかも知れませんが、実にその通りです。
主人公の栗原駿(くりはら しゅん)は、旅行して旅先で美味しいものを食べるのが趣味の高校二年生。夏休みは軽井沢へと一人旅をしますが、(間違って)入ってしまった(旧)軽井沢駅舎記念館で女子二人連れの鉄道オタク、北見美優(きたみ みゆ)と宮田くれあに出会い…
舞台はもっぱら長野県内、(様々な鉄道を乗り回す)二日間の旅が描かれます。
作者は小説業界では新人ですが、「元ゲーム会社の宣伝プロデューサー」で電車運転ゲームの宣伝に従事してきた人とのこと。それだけに、鉄道知識は詳細です(正確さの検証は、私にはできませんが、評判を聞く限り間違いはないとのこと)。
ただ、非鉄道オタク(美優に“初心者”の鉄道オタクと思われてしまいますが…)の主人公に対し美優が説明する場面が多く、鉄道オタクの読者にとっては、いささか初心者向けの説明がくどい印象があるかも知れませんが。
イラストも美少女の絵が中心ですが、カラー口絵を含め鉄道や風景のみのイラストもちゃんと何枚かありますし、目次ページには簡潔な鉄道路線図も登場します。。
ヒロインのキャラ造型は、アクティブかつ強引に引っ張り回す美優と、清楚な印象でほとんど喋らないくれあという取り合わせで、途中でもう一人、大人しめの(で巨乳の)眼鏡っ娘・白糠由佳(しらぬか ゆか)が加わりますが、割と典型的なものです。主人公との関係では恋愛というところまで発展した様子も今のところありません。
後半三分の一――いわゆるクライマックスでは、転校することになった由佳が憧れの先輩に最後に告白すべく追いかけることになり、時刻表ミステリよろしく乗り換えを駆使することになります。
ラブコメで時刻表もの、というこの発想は結構面白いですね。
なお、タイトルの「うまく時刻表をめくれない」という不思議な表現(時刻表をめくるのが「上手い」とは何ぞや)は、宮田くれあの駆使する驚異的な時刻表検索術に由来します。
自分なりにそれを形容できる自信がないので引用しますが…
俺があ然として見ていると、宮田さんは最初の方のページを素早くめくって地図を一瞬で確認すると、グイッと厚い時刻表をU字型に二つ折りしてページの横をスススッとなぞり、一発でページを開いた。
そして、開いたページの一点に白い小枝のような指先をすっと置いた。
のぞき込むとそこには軽井沢かた横川へ向かうJRバスの時刻表が出ていて、次のバスは10時と書かれていた。
ええっ―――! なに!? そのさらっとやった神業は!
大して長く生きてはいないが、今までに見たこともない本の検索方法を見せられた。
(豊田巧『僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない』、小学館、2011、p.46)
ここまでではありませんが、後半では美優もかなりの検索能力を披露します。
現実に同様の技術の保持者に心当たりのある方はいらっしゃいますか?
(芸術学4年T.Y.)
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