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説明することとしないこと

また明日から年明けまで登山に行くので、しばらく更新できなくなると思います。

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さて――まず、以前にも引用したことのある文章をもう一度。

(……)ぼくは、フィクションにおいてこのシミュレーションを扱った作品を知らない。もちろん、山田風太郎氏の『魔界転生』を読むまではだ。氏こそ、世界初の魔界アルティメットを実現させた作家である。
 歴代の剣豪もし闘わば……、この設定を実現させるため、氏は、剣豪たちを同じ時代に生き返らせるという、実に安易ともとれる手法を取った。『リング』『らせん』の作者〔=鈴木氏自身のこと〕であったなら、刀の刃から検出された血液からDNAを抽出して再生させるまでの描写を、論理的に、くどくどちまちま繰り広げたあげく、再生を果たしたところで「おしまい」にしてしまったにちがいない。しかし、なんとこの作者は、「エロイム・エッサイム」などというわけのわからない呪文ひとつで、宮本武蔵や荒木又右衛門らを生き返らせ、柳生十兵衛との格闘シーンをふんだんに盛り込んだのだ。なあんだ、こんなやりかたもあったのか、分子生物学など勉強して損した、と目から鱗の落ちる思い。しかし、論理的な説明が一切ないぶん、これが理屈抜きでおもしろく、最後まで一気に楽しめる。『魔界転生』は、格闘家が抱く疑問にも応え得る、まさに画期的な作品であった。
 (鈴木光司「世界初の魔界アルティメット」、山田風太郎『風来忍法帖』所収、講談社ノベルス、1996、pp.480-481)


そして、同じ山田風太郎氏の「忍法帖」シリーズの解説から他にもいくつか。

 山田風太郎忍法帖シリーズの中心が、これでもかこれでもかとばかりに繰り出される奇怪な忍法にあるのは誰も疑わぬであろう。いずれの小説でも例外なく、恐るべき業を身に就けた忍者軍団が登場して大いに賑わうのであるが、彼らの忍術は到底生身の人間が訓練を積んだ挙げ句に獲得できるような代物ではない。いわば全員が特異体質者、超能力者であって、しかもその超能力というのが、よくテレビなので話題になる透視だとか念動力といった、いかにもありげな通俗現象とは縁遠い。本書『信玄忍法帖』でも、たとえば箙(えびら)陣兵衛という忍者は「春水雛」なる術を使うが、これはつまり最初は小さな一対の男女の人形だったものが、性向をはじめるにつれて水を吸って膨れ、やがて部屋一杯にまでなって人間を圧死せしめる。あるいは猿飛天兵衛の忍法「水牢」は地上をいきなり水底に変えて敵を圧死せしめるという恐ろしい術である。
 ここで重要なのは、これら人間業を遥に超えた異常な術の数々が、一切の合理的説明がないままに次々繰り出される点にある。(……)
 実際のところ、どれほど突飛な忍法であれ、それなりに合理的な説明をしようと思えばできないわけではない。そういう小説の書き方も実は可能である。水に触れると化学変化を起こして何万倍にも体積が大きくなる物質があるのだと、疑似科学を持ち出す手もあるし、催眠術をかけた隙に水を張った洗面器に顔を押し付けて殺す(どういう意味があるのか不明ではあるが)のが忍法「水牢」の実態なのだと種を明かしてもよい。ところが山田忍法帖の世界はこうした合理性を頭から無視してかかるところに著しい特色がある。
 (奥泉光「山田風太郎忍法帖の方法」、山田風太郎『信玄忍法帖』所収、講談社ノベルス、1994、pp.257-258)


 一見支離滅裂の忍法も、きちんとなぜそうなるのか説明されている
 例えば本作の『地屏風』という忍法は、水平と垂直を入れ替える、つまり世界を90度傾けてしまうという無茶苦茶物凄い忍法だが、これは幻覚の類かというとそんなこともなく、物理的に世界は90度傾いてしまうらしい。恐ろしい技である。これで――何も説明しなければ怪談である。理論的整合性のある現実的な解答を与えればミステリである。科学的説明の延長上にある疑似科学を説明体系に用いればSFになる。因縁を用いれば因果話になる。神仏を持ち出せば縁起談になる。洒落で落とせば落語になる。山田風太郎は小説内で起きる不可解な事象の説明にそのどれをも用いず、かつ説明を放棄することもしない。
 この『地屏風』は甲賀に伝わり、こともあろうに『騎乗位で交わる際に男性の自尊心を傷つけぬ』ため犬江親兵衛に伝授された技だ、と説明される。そんなもの何の説明にもなっていないと、多分大方の識者は仰るだろうが、それでも説明は説明である。文学的決着はついている。山田風太郎の小説世界は、そういう忍法がリアルに使える唯一の世界なのだ。否、世界の方が忍法に合わせて創造されているのである。
そこは、一から十まで何もかも、ありとあらゆるものが山田風太郎の造り上げた――完全虚構世界なのである。
 だから小説内に構築された因果律に添う限り、その説明は論理的整合性を持つ有効な説明である。粘膜が剥離して生命活動を続けようが短時間で完全顔面整形が傷跡も残さず完了しようが何の不都合もない。反面、その因果律に添わぬ出来事は作品内では決して起こらない。何でもありが間違いだと述べたのはそれ故である。忍者は訳もなく空を飛んだりしないし、殺された者は(不死身という設定でない限り)生き返りはしない。
 (京極夏彦「読者、術中に陥る。」、山田風太郎『忍法八犬伝』、講談社ノベルス、1996、pp.324-325)


三氏の説明は少しずつ違っており、たとえば奥泉氏が「一切の合理的説明がない」ことを強調するのに対し、京極氏は「説明」はされていると言います。ただそれも、何を説明するかの差であることはお分かりでしょう。忍法の来歴が分かったからといって、物理的原理が分かるわけではありませんが、しかし作中の理論では“それで良い”ことになっているわけです。

これに対して、現実の科学の延長上にある(少なくとも、そう感じられる)疑似科学的説明を用いる作品を「ハードSF」と呼びます。あくまで「ハードSF」的説明にこだわった作家として、たとえば先ごろ亡くなった小松左京氏がいます。
小松氏の『日本沈没』は不朽の名作ですが、氏は元々本作を『日本漂流』という作品として、つまり日本列島が沈没した後、世界に分散して漂流する日本人を描く作品として構想していました。
結局、プレートテクトニクスを用いて、「日本列島が沈没するまで」を入念に描いたために、長大になりすぎたこともあって単独で公刊することになり、そのままになっていたわけですが…(氏の生前に、代筆という形で『第二部』が出ましたが)

方法の優劣を言うわけではありませんが、ここで「(物理的な)理屈など脇に置いて、さっさと日本を沈めてしまう」という手もあります。最初だけ超常現象で日本が沈んでおいて、その後は超常現象のない現実的な世界で漂流する日本人を描く――そういうやり方も可能です。
架空戦記であれば、たとえば現代から戦国時代にタイムスリップした主人公が、あくまで現代から持ち込んだ兵器を用いて、物理法則に従って戦うのを描き、「なぜタイムスリップしたのか」などは問わない。
鈴木氏が「『エロイム・エッサイム』などというわけのわからない呪文ひとつで」と言っているのも、そういうことです(『魔界転生』の敵は――例外はあるものの――基本的には超常の忍法を使うのではない剣豪たちです)。

もっとも、「どこまでがアリか」というのは、明示されているわけではなくてもやはり分断線があるもので、その匙加減次第では「え、そんな世界観だったの?」と読者に不整合を感じさせることもにもなるわけですが。

今日はこの辺で。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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