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人より出来事が主役――『人類は衰退しました』

前回の話でまず言わんとしていたのは、問題を作ることの難しさです。もう少し経つと大学入試の難問・奇問が話題になる季節ですが、クイズ番組のプロデューサーも他人事ではないこと、分かっているのかどうか。
まあこんなことを言うまでもなく、TV局に抗議の電話を入れる人もいるようですが。

 ~~~

では今回は、先立って触れたライトノベル『人類は衰退しました』の話でも。
とは言え、これまた、この独特さをいかなる切り口から語って良いものか、困難な作品ですが…

人類は衰退しました 1 (ガガガ文庫)人類は衰退しました 1 (ガガガ文庫)
(2011/11/18)
田中 ロミオ

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世界観を大まかに説明すれば、人類が(人口面でも、文明に関しても)衰退した遠未来で、今や「人類」と言えば「妖精さん」のこと、という状況です。
この妖精さん、身長10センチほどの小人の姿で、その生態の多くは謎ながら、数多く集まれば一晩で都市(当然、妖精さんサイズですが)を生み出すほどの知性を発揮します。
しかしそうした超科学文明も、飽きればいずれ捨てられるという程度のもので、基本的に「楽しむ」という以外の野心はない模様。さらに、妖精さんの超科学はノリ優先で、本人たちに聞いても説明ははっきりしない上、世代交代も早いのでその仕組みはすぐに忘れ去られます。

主人公の「わたし」は、この度学舎を卒業して、妖精さんと人間の間の問題を調停する「調停官」として赴任します。
いざという時のため、妖精さんと親交を築いておくことには成功しますが、その結果、妖精さんの超科学が巻き起こす騒動に度々巻き込まれる、というのが主なストーリーですね。とは言え、実際には今やほとんど問題など発生せず、事件が起こっているのはほとんど「わたし」の周りだけなのですが…
「わたし」は女の子で、地の文が「です・ます」調であることもあって、何やらほのぼのとした調子ではありますが、起こっている事態は結構過激だったりします。
妖精さんの台詞もすべて平仮名で舌足らずな口調ながら、しばしば何とも知的なものを感じさせます。

特徴と言っても色々あってどこから語ったものか難しいのですが…一つには「登場人物に名前がない」ということがあります。
主人公は「わたし」で、調停事務所の所長であるその祖父は「おじいさん」、2巻末から登場する助手は「助手さん」、その他に「お嬢様A・B・C」とか「Y」とかイニシャルが使われることもありますが、とにかく名前は出て来ません。サブキャラには一部名前が触れられるキャラもいますが、その場合、名前にはちゃんと意味があったりします。
さて、妖精さんには設定上、名前がありません。

「名前ですよ、名前。自己紹介してくれると嬉しいんですが」
「な……まえ……?」「ねーむだ、ねーむ」「ねーむとはなまえのことだ」「ぺんねーむでいい?」
「いいですよ?」
「……」しばし考え込む発言者。「……よくおもったらなかったです」
「でしょうね」
 ちょっと慣れてきました。
 (田中ロミオ『人類は衰退しました』、小学館、2007、p.90)


妖精さんはいつの間にか増えていますし、大量にいなくなってもケロッとしていますし、大量に集まると高度な文明を発揮するという設定と相まって、「個」の乏しい群体生物(「生物」であるとすれば、の話ですが)なのか、と思われます。
しかし、作中では人間にも名前はありません(あくまで、名前はあるけれども作中に出て来ない、というだけですが)。
この辺りが「人間が妖精さんに支配者の座を明け渡した」ことを反映しているようにも感じられますが……

「わたし」には人付き合いが苦手だとかいう設定もあり、それなりに内面も語られますが、全体として感情がダイレクトに伝わってくるような語り口ではなく、「“出来事”の方が主役」という印象が強い作品ですね。

そもそも、「人類が衰退した」事情からして不明のまま、淡々と衰退後の世界が描かれていて、劇的なカタストロフなどの気配を感じさせないのもまた、何ともいい味を出しています。
                           (芸術学4年T.Y.)

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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