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時間ミステリ――『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』

ライトノベル紹介もそれなりの頻度で書いてきたものの、何だか書いても書かなくても大差ないような紹介が多かった気もします。
今回のこれは傑作……! と思ったのですが、また別の意味で紹介が書きにくい作品です。

昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)
(2011/11/25)
入間 人間

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明日も彼女は恋をする (メディアワークス文庫)明日も彼女は恋をする (メディアワークス文庫)
(2011/12/22)
入間 人間

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上下2巻で完結です。
主人公は人口数百人の小さな離島に住む大学生。
幼馴染のマチとは子どもの頃に大喧嘩をして以来、仲は冷え切ったまま。しかも現在、マチは事故で車椅子の生活になっています。
そんなある日、島に住む自称・天才科学者の松平貴弘(まつだいら たかひろ)さんから「タイムマシンを完成させた」との連絡があり、(マチは松平さんのところでアルバイトを勤めていることもあり)二人で試乗させられることに…
タイムスリップは本当に成功し、二人は、自分の足で元気に走ってくる「小さいマチ」を目撃することになります。

子どもの頃に素直に気持ちを伝えられず、仲違いしてしまった子との関係をやり直せるなら……上巻『昨日は~』では、そんなSFラブストーリーが展開されます。しかし、現代に戻ってみると過去の改変が思わぬ結果を引き起こしていることが分かり…というところで引きとなります。

市井の科学者がタイムマシンを完成させる、という話はいかにも『バック・トゥー・ザ・フューチャー』的ですが、そのことは作中人物によっても執拗に自己言及されます。
(ちなみに作中で言及されることではありませんが、主役の男女のあだ名「マチ」「ニア」も『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のマーティーとニーアから)

『ドクと呼べと言っているだろう』
「そうしたら僕をマーティーとでも呼んでくれるのかい?」
 (入間人間『昨日は彼女も恋してた』、メディアファクトリー、2011、p.21)


「やはりタイムマシンは車型だ。カーペット型も捨てがたいんだがなぁ、近未来的で」
 (同書、p.39)


 時間旅行に興味がないとは言わない。だけど毛ほども信じていない。そういうものは映画や小説の中で楽しめばいいのであって、現実に空想を持ち込んではいけない。
 そして言っちゃあなんだけど、こんな島のポンコツ科学者がオンボロ車を改造してタイムマシンにできるとは思えない。
 (同書、p.41)


「時空は崩壊しなかったな」
「は?」
「いや、別の時代の自分と会ってもさ」
 (同書、p.63)


つまり、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』に憧れる科学者が空想を実現してしまった、というわけです。
このように散々「ありえない」と言わせておいてそれが現実のものになってしまう『ハルヒ』的状況ですが、まあこれは、(タイムマシンが当たり前となっている世界ではなく)現実と地続きに思われる世界観で、しかも全くの市井の人に時間移動をさせるという舞台設定をする以上、必要なことだとも言えるでしょう(島の科学者がタイムマシンを作るなんて話を登場人物があっさり信じてしまっては“リアリティがない”でしょうから)。

このように『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のラブストーリー版――と見えた本作ですが、下巻『明日も~』では、歴史改変にまつわる複雑な状況に、さらに大きなトリックが仕掛けられていたことが発覚。
何を言ってもネタバレになるので語るのは難しいことですが、いや、これはやられました。

デビュー作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(略称:『みーまー』)以来のミステリ仕立てですが、デビュー当時からすると文体も随分と洗練されており(饒舌な文飾も結構減って、すっきりしたものになった感もあります)、また思いがけない取り合わせでやってくれた、という印象でもあります。
時間移動に関する設定そのものは(こういうことも、細かいことを突いていけば「同じ設定は二つとない」とも言えますが、基本的には)オーソドックスなものです。やはり、その上でのストーリー上の仕掛けが見ものですね。
架空の現象に立脚したミステリというのは「アンフェア」の感を与えやすく難しいところですが、本作は十分に上手くやっているかと思います。下巻を読み終えてから上巻を読み返すと面白い作品ですね。

「自分の幸福は他人の不幸によっている」という、『みーまー』でしばしば語られたペシミスティックなテーゼも登場し、ゾクッとするような業深さを感じさせるラストもいい味を出しています。

イラストーレーターが『みーまー』の氏というのもポイント(メディアワークス文庫では、イラストは表紙のみですが)。
『みーまー』以来の入間ファンなら買って損のない作品でしょう。
                           (芸術学4年T.Y.)

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