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教養はどうなるか

9月11日の記事から続く)

時々引用してきた内田樹氏の『街場の教育論』では、以下のような主張が展開されています。

1.専門用語というのは、意味をよく知らなくても仲間内でやり取りしている内に使い方は分かってくるものである。そして大学の専門課程の教育というのはそういう基本的なことを「訊いてはいけない」場である。
(1-補.さらに同著者の『ためらいの倫理学』なども見るに、大人になるというのはそうして「分からないことの意味を訊かない」ことを覚えることである)
2.しかし、「使える専門家」というのは「他の分野とコラボレーションができる専門家」であり、そのためには基本的なことも説明できなければいけない。
3.(専門課程と違い)基本的なことを「それはどういうことですか?」と訊いても良いのが教養課程であり、大学の専門課程を重視して教養課程を削減したために、大卒者の能力は劣化してしまった。

「学力低下」問題についても多くの論議があった訳ですし、本当に「大卒者の能力が劣化」していて、それが「教養課程の削減のため」なのかどうかは議論の余地があると思いますが、話の趣旨はまっとうでしょう。つまり、教養課程と専門課程、「~~とは何ですか?」と訊いても良い場と良くない場は、両方確保されなければならない。

しかし、「では教養課程が2年間あれば十分か」という疑問は出てくると思います。
※ '91年の大学設置基準緩和までは、大学の2年生までは教養課程として専門分野に限らず色々と学び、後半2年間を専門課程とすることになっていました。しかしこれも戦後の新制大学で出来た制度で、詰め込みすぎではないかという批判は当然ありました。例えば、旧帝大の教養部の前身に当たる旧制高校は3年間でしたしね。
さらに、本学の芸術学では、下の学年の内から専門的な授業だって取ろうと思えば取れる制度ですが、私はこれを大変良いものだと思っています。元々専門性の高いところではありますが、その中でも「西洋美術史」「日本美術史」「現代アート」「美学」といった専門分野を選ぶことになっていて、基礎の授業だけ受けてさあ選べ、となっても、結局それがどんなものかよく分からないと選べません。だから「ほとんどできなくてもいいから、高度な“研究”授業を受けて専門の雰囲気を掴んでほしい」というある先生の言葉に、私は概ね同意します。

しかしもちろん、教養を軽視していい訳でもありません。
ここで哲学者・鷲田清一氏の発言から。

今の時代の先端技術というのは、特に理工系や医学部においては、以前からは想像もできないほど細分化が進んでいます。情報科学にしても遺伝子工学にしても、うっかりしているとすぐに浮世離れして、とんでもないことになってしまう。端的に言って、人間は以前よりずっと危ないものを取り扱うようになってきています。そんなときに、自分のしていることを相対化できないというのは非常に危ない。しかし一方で、ただ価値観を平準化してしまっては研究が進まない。つまり、研究者がそれぞれ、今自分の取り組んでいる研究が、歴史的にどういう意味があるのか、どういう社会的メリット、デメリットがあるのか、研究をしながら逐一判断していくしかないと思うんです。
戦後教育での教養教育は、教養課程が済んだら専門課程という流れでしたが、今は専門課程が進めば進むほど、それにあわせた高度な教養が必要になるというイメージを持つ必要がある。
(『中央公論』2009年2月号、竹内洋氏との対談「下流化した学問は復活するか」より)


とは言うものの、学生の立場としては、学年が上がって専門の勉強がより高度で大変になってくるにつれて、他の授業に出なければならない量は減っていく。これが逆であっては困ります。思いますけど。
どうも、カリキュラム上での授業のコマ数だけの問題として考えるのは、すでに無理があるんじゃないかと思います。
そもそも、本当に「学ぶべきことが高度化している」んだったら、今まで通りの4年間では足りなくなるはずです。もし仮に「新入生の学力が低下している」のでそれを補うこともしなければならないとしたら、なおさらでしょう。
                           (芸術学2年 T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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