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「婚活」を巡るラブコメ――『雅の婚カツ戦争』

今日は卒業修了制作展の会議、というか搬入・搬出の説明会で大学に行ってきました。雨天につき先生の蔵書整理はお休みです(まあ実際には、午後には雨は上がっていましたが)。

先生の論集を作成するに当たって、一度印刷出版された文章をふたたびデータ化するという仕事をしていたりします。
スキャナーで取り込んでPDF化し、それをテキストとしてコピーしてから元のテキストを見て直していくというやり方をすると……確かにキーボードを叩く量が大幅に少なくなる分楽になった気がしますが、かかった時間がどの程度節約されたのかは、今ひとつよく分かりません。普段自分が何文字打つのにどれだけかかるか計っていませんからねぇ…

 ~~~

さて、いつも通りにライトノベル紹介(版型はノベルスですが)。
至道流星の作品でも、これは(他の作品のついでも含めて)触れたことがありませんでしたね。

雅の婚カツ戦争 (幻狼ファンタジアノベルス)雅の婚カツ戦争 (幻狼ファンタジアノベルス)
(2011/02)
至道 流星

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主人公は大手銀行に入社二年目(24歳)の優秀なキャリアウーマン・九条雅(くじょう みやび)。その実力と美貌、それに曲がったことをけっして許さず上司にも平手を食らわす気性で、誰からも一目置かれる雅ですが、彼女はあくまで「やっぱり女の未来は、自分に相応しい男を見つけられるかどうかがすべてなのよ」(p.24)と主張し、相応しい男と結婚することを目標としています。しかし彼女が「自分に相応しい」と考える条件(「資産1000億円」!)に沿った男は結婚相談所を当たっても見付からず、ついに高校時代の同級生・鷹野夏希(たかの なつき)と会社の後輩・七海(ななみ)あずさとともに、自ら結婚相談所を起業することに。
作者の他作品と同じく、優秀なヒロインが引っ張ってビジネスを展開する話ですが、序盤はむしろ雅の方が主役で、男主人公は40ページ目になってようやく登場します。佐倉京介(さくら きょうすけ)、雅の小中学校時代の幼馴染で駆け出しの売れない作家(年収130万円)ですが、広告文のライターとして雅の始める結婚相談所「マリッジプランニング」社に雇われることになります。

京介はずっと雅に想いを寄せていましたが、雅の「相応しい男」基準からすれば眼中にあるはずもなく……と言ってしまえば、まあラブコメとしての落としどころは想像が付きますが、これが「婚活」という現実のいたるところにある舞台設定の中で展開されているところがポイントです。
実際、容姿・年齢・経歴・社会的地位・資産といった条件を様々に指定し、「自分に相応しい相手」を求める婚活は盛んに行われていると言います。

京介はそれなりの能力も行動力もありますし、作家として劇団の仕事を引き受けたりしてきたことによる人付き合い(人脈)もあり、しかも厳しい境遇にあって女性陣からいじられながらもおどけて場を明るくするよう心がけていますし、実にいい奴です。

「あずさはいっぱい本読んでるんでしょ。だったら、京介が書いてる本、知ってた?」
 雅の問いに、あずさは申し訳なさそうな顔をする。
「ペンネーム『京本祐介』さんでしたっけ……。ご、ごめんなさい、その、一冊も……」
「君に届けこの想い!」
 努めて明るく京介はおどけた。
 あずさが知らないことは、ちっともショックではない。作家の名前なんて、意外なほど世間は知らないものなのだ。売れている作家でさえ、固定ファン以外に認知されていることは少ない。知らないのが自然な状態。京介が明るく振る舞ったのは、あずさが申し訳なく感じないようにしたかったからだ。
 (至道流星『雅の婚カツ戦争』、幻冬舎、2011、p.59)


無いのは社会的地位と収入。しかし、現実にはこれこそ最大の問題です。
『羽月莉音の帝国』でも、「週末までに借金を返せないと破綻」「ここで破綻したら社会的にも破滅しかねない」というのは、ファンタジーで世界滅亡の危機だなどというのよりも数段緊迫感のあるものであることを感じさせてくれましたが、ある種、ここでも状況は同じです。

結婚相談所のシステムについても説明がありますし、新規開業したマリッジプランニングは、最初の依頼人が現れるまで経営が保つかという危ない状況を経験したりするものの、経営戦略のことが主題的に扱われるわけではないので、ビジネス小説としては軽めです。
相談者やマリッジプランニングを経営するヒロイン達の恋愛を巡る話がメインですね。意外なカップルが成立することもありますが、そこにはそれぞれドラマがあり。

仮に「女の未来は、自分に相応しい男を見つけられるかどうかがすべて」という雅の考えに同意するとしても、「相応しい」相手とは何でしょう…?
「愛される人」の固有性は、容姿・社会的地位・その他諸々の一般名詞で表せる属性にはけっして還元できない、というテーゼを思い出してみてもいいでしょう。
「婚活」という場面からそれを描くこと、なかなか見事な作品だったと思います。

最後に名台詞を一つ。

「まったく結婚するつもりがないなら、むしろ結婚しておいて損はないと思うんだ。[……]
 (同書、p.143)


                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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