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修羅場と文化的共存――『僕の妹は漢字が読める』(主に)3巻

連休の谷間ながら午後には授業がありました。まあ明日からは休みです。

アニメ『這いよれ!ニャル子さん』第4話を観ました。
予告通り原作第4巻の内容で、ハス太とルーヒーが登場。しかし本格的に事件が起こるところまで行かないまま引きで、3話までの急ぎ具合に比べるとだいぶ落ち着いたペースとなった印象があります。やはり早くメンバーを揃えることを優先していたのでしょう。
原作では3巻のラストで真尋の母・頼子が登場して敵の残党を倒した(!)ところで引きとなり、4巻冒頭で説明が入るという展開でした(今までのところ唯一の次巻への引きです)。そんな風に怪物を退治できるスキルと経験を持つ母親だからこそ邪神=宇宙人の居候たちをもあっさり認める、という展開だったのですが、アニメでは3巻がカットされて普通に母帰宅という展開なのでどうするのかと思っていたところ、「這い寄る混沌」という名乗りを聞いてフォークを構えるという展開から上記の通りの流れに。
実際にその技を揮って敵を倒す描写がなかった分インパクトが落ちる気がしますが、やむを得ないと見るべきでしょうか。原作通りの展開ならこの後活躍がありますし…
それと、原作ではあくまで地球産の怪物を狩る「実戦民俗学」であって、邪神=宇宙人を相手にしているわけではないし、特に上級の邪神は地球最強の人間と言えど狩れはしない、という設定でしたが、こちらでははっきり「邪神ハンター」と言いましたし、その辺が曖昧になっている感もあります。

「だいだいわかった」(仮面ライダーディケイド=門矢士の口癖)とか「最高のパートナーが出会う時奇跡が起こる」(『仮面ライダーW』主題歌)などのネタは実に原作イメージに忠実、(一応)今回の敵であるルーヒーが活動を開始し迫る描写が合間合間に挿入されるアニメ的演出もまずまず。

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ところで、過去へのタイムトラベルを扱った作品では、「序盤で触れられていた事柄の原因が、実はタイムトラベラーが過去で行ったことだった」というのはほとんど定番の演出の一つです。
『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のような過去改変型のストーリーにこの演出を入れた場合、「タイムパラドックスについて」で挙げた3類型で言うと1と2が共存することになります(言うまでもありませんが、過去を改変するメインストーリーは2の「改変」に、上記の演出は1の「タイムトラベラーの行為は“織り込み済み”」にそれぞれ該当します)。
しかしこの演出はありふれたものであって、それゆえ(当の『バック・トゥー・ザ・フューチャー』シリーズも含め)多くの作品において1と2のパターンは共存することになるのです。

ここで触れてきた例では、『這いよれ!ニャル子さん』の9巻も、『僕の妹は漢字が読める』もそうです。
『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』の場合はもう少し微妙であって、確かにそう解釈できる演出はありますが、もしかするとそれは冒頭の時点でこの世界が「一巡目」ではなく、すでにタイムトラベルが存在したことを示すのかも知れません。

…最近の例ばかりなのはこちらの記憶力のせいもありますが、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』型のオーソドックスなタイムトラベルストーリーが手持ちの中には意外に多くないせいもあります(ちなみに『ドラえもん』の場合、確かに1と2両パターンの話がありますが、一つのエピソードの中に両者が混在していた例は記憶にありません)。

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そんなわけで、昨日までもに引き続き『僕の妹は漢字が読める』の話に繋げてみたいと思います(無理矢理ですけど)。

さて、現実において、たとえば「自然主義リアリズム」のようなきわめて限られた世界の基準を自明のものように振りかざして、それに合致しない作品を切り捨てるがごとき自慰行為が「批評」としてまかり通るといった事態が本当に存在したのか、文壇を知らない私には知る由もありません。
ただ、仮にあったとしても、そもそも「純文学」が下手をすれば同人誌よりも売れない今の日本では、それ自体が狭い世界の事柄に留まるでしょう。限られた「文学」の基準をもって他ジャンルの文学――たとえばライトノベル――を否定するような人間はそれこそ2ちゃんねるくらいにしかいませんし、そういうことをしている当人が文学に対する造詣も思い入れもないこと明らかなので、(たとえ2ちゃんねるにそれなりの影響力があったとしても)問題になりません。

これに対して『僕の妹は漢字が読める』の23世紀においては、オオダイラ・ガイがヒットを飛ばし続けている大作家、文壇にも社会的にも影響力を持っているのは客観的な事実です。作中の23世紀文壇が異様に思える真の理由は、おそらくそこにあります。そして、小規模なジャンルが互いに排他的に林立している現代よりもこちらの方が排他的に思えるのも事実です。
しかしだからこそ、そうした排他的な姿勢は自己批判の対象にもなるのです。またオオダイラ先生は、「わたくしは過去に行って考えが変わったんだ」と、率先して「パンツを見せずば文学にあらず」という姿勢を改める態度をも見せています(やはり彼は、変態であることを除けば尊敬に値する知識人です)。

加えて、ここでもギンの目に見えるものだけが真実ではないことを勘案すべきでしょう。23世紀においても元々、萌えのない作品として話題を読んだ『うすび』がホミュラ賞候補に挙がっていました。オオダイラ作品がマジョリティの人気を獲得して「正統派」と呼ばれていることは必ずしも、それ以外の文学がまったく認められないことを意味するわけではありません。
オオダイラ先生がパーソナリティを勤めるラジオ番組『オオダイラ・アワー』が放送禁止用語の連呼で中断したりしつつ、それを「楽しみにしているリスナーも多い」等という記述(2巻p.239)を見ると、多くのファンはギンのように先生の発言に心酔しているというより、「パンツを見せずば~」といった放言も半ばネタとして楽しんでいるのではないか、とも思われます。

そして、歴史改変の結果として、漢字が使われていた時代の文化を伝える「ぶんかとっく」がアリアケに存在するようになった3巻からは、文化的共存という困難なテーマはいっそう重大なものとなってきます。
確かにあの歴史改変者のように、「正統派文学」よりも漢字の使われていた時代の文学を愛するものの居場所ができたのは喜ばしいことですが、「ぶんかとっく」と「外日本」(=「ぶんかとっく」以外の日本)の対立という大規模な問題が浮上してもきます。
祖父への反感から生まれ育った「ぶんかとっく」を憎み、漢字ばかりか仮名も廃止して新しい書き言葉を作ることを主張するギンの実妹アマネコが登場、妹達の修羅場に振り回される中で妹の気持ちと文化に対する態度を自問することになるギンの姿は、まさにこの作品の設定をいかんなく活用したものと言えるでしょう。


最後に、キャラについても少し触れておきましょう。
主人公がボケで、クロハ意外はほとんどがバカかボケか変態か……とにかくどこかおかしいという一見かなり妙なキャラ配置の本作ですが、実は独自の見事なバランスを形成していることが分かってきます。
特にいいアクセントを入れているのがギンの下の妹ミル。10歳ながらイモセ家の「ご先祖たちと比べても際立った言語能力をもって」(1巻p.57)いて漢字が読めるのはもちろん、絵も上手いという彼女、口数は少ないながらやたら強烈な毒舌を吐きます。
オオダイラ先生の変態ぶりが相手だと常識人のクロハでは突っ込みきれないのですが、そこをミルはシンプルな毒舌であしらってみせます。敵との口論でも鋭いところを突きますし、ラジオ『オオダイラ・アワー』でも大活躍。
たとえばオオダイラ先生のライバル作家、ハルカ・ハルカ(「義妹のオオダイラ」に対する「実妹のハルカ」らしい)とともに出演した時など――

◆ リスナーBさんより
オオダイラ先生は小学生にこだわりがあるようですが、もし小学校の備品になれるとしたら、何になりますか?

オオダイラ「女子児童の椅子だね」
ハルカ「ふん、ありきたりですぞ」
オオダイラ「ハルカ君ならなんだと言うのかね」
ハルカ「体温計」
オオダイラ「……悔しいがその発想はなかったよ」
ミル「脳の無駄使いだ」
 (かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』3巻、ホビージャパン、p.76)


ハルカ「ちっともわかってないのですぞ。妹との真の幸せは、結婚ではなく心中エンドなのですぞ」
ミル「おまえこそ心中しろ」
 (同書、p.181)


ミルが漢字の読み書きで活躍する場面はそれほどないのですが(イラストの方は活用されます)、実は「頭のいい子供による毒舌のツッコミ」であることがかなり重要なのが分かります。
「常識人でツンデレの妹」という、当初は一番平凡なキャラに見えたクロハも兄に対し献身的で実にいいヒロインになっています。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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