オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
森と人間――『森の魔獣に花束を』
事前に担当者を指定する方式の場合、その分今週読むことになるわけで……読む番が回ってきての緊張感があると、やっと演習をやっている気がしてきます。
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さてライトノベル。
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世界観は「剣の魔法」のファンタジー。主人公のクレヲは名家の長男だが、病弱で父親からも期待されず、絵を描くことだけが楽しみという少年。彼は跡継ぎを決めるための試練で魔獣の済む森に入ることになるのだが、美少女の姿の魔獣に捕まってしまい……
表紙の少女がその魔獣ですね。少女の姿ですが頭上に大きな花があり、背中からはたくさんの触手が伸びていて操ることができる植物系のモンスターらしい。
しかしクレヲは食われず、魔獣と共に生きる日々を送ることになってしまう…というボーイ・ミーツ・ガールの物語が美しく描かれていて、特に人外ヒロインが好きならば宜しいかと。
……というのはたしかに正直なところでありまして、お奨めするかしないかと言われれば奨めて良いと思うのですが、何か釈然としない想いが残ったのも事実でした。
作品全体に対する評価と書くことのトーンが乖離しているのも困ったものというか性格が悪いというか…なのですが。
要するに、この物語をラストまでまとめれば、「生まれ育った世界に馴染めなかった少年が、森で魔獣の少女と出会い、そちらで生きていくことになる物語」です。
クレヲにほとんど期待してもいない冷たい父親とか(直接登場する場面すらほとんどありません)、その父親に仕えてクレヲには敬意のかけらも見せない執事のマーカス等といった人物たちは、クレヲを受け入れず、クレヲが捨てることを選ぶ世界、という以上の意味を持ちません。
もちろん、「ここで逃げるだけというのは良くない」等と言いたいわけではありません。
問題は――病弱なクレヲが冬の森を行き抜くことは難しいだろう、といった話も出ていたのですが、結局それはラストの展開により、いわばたまたまクリアされた形になります。クレヲは「死んでも構わないから、森に留まる」と決意し、その姿勢を表明もしましたが、「それを達成するには何をするべきか」を追究するには至らず、その暇もありませんでした。
が、森の環境は人間が生きていくには厳しいものであり、他方で人間の中には魔獣を狩る狩猟者もいる――つまり、森と人間の間にはある種の緊張関係があって、その境界を越えるのは容易ではないことが全体として示唆されていたわけです。
にもかかわらず、「いかにしてその境界を越え、森の中で新たな共同性を築くか」という問題が――問われてもおかしくないだけのお膳立てがされていながら――主題化はされなかった。そこが気になったわけです。
どうもネガティブな評となってしまいましたが、まあこの辺にしておきます。
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