スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

テレパシーの現象学

唐突ですが、竹本泉氏の漫画『よみきりもの』には、読心能力を持つヒロインが登場する回がありました。
彼女、岸島恵子は他人の思考がビジョンとして見えるのですが……

よみきりもの(岸島)

よみきりもの(岸島)
 (竹本泉『よみきりもの』4巻、エンターブレイン、2003、p.23)

かくして、ほとんどが意味不明で役に立たないという驚きの展開。
しかし、何だか妙に納得してしまうのは、これが私たちの経験に沿っているからですね。

ただ、もう一歩踏み込んで考えてみましょう。
たとえば「ハローキティのことを考える」時、私たちは上記の画像で描かれているような「うろおぼえキティ」を明示的に思い浮かべているのではありません(明示的なイメージになってしまえば、それが「違う」ことに気付くはずです)。
実は「うろおぼえキティ」ではなく正確なキティを思い浮かべてはいるのだが、ほとんどの目の前にあるものでも正確には描けないのと同様、実際に描き出すことができないだけでしょうか。しかし、いくら絵の上手い人でも記憶だけに頼って絵が描けるとは限りません。おまけに、「うろおぼえキティ」を書いてしまった後でも、「何か違う」ことは分かっても、どこが違うのか正確には指摘できなかったりします。実物を横に置けば、そんなことはありません。

つまり、人が「ハローキティのことを考える」時、実は明示的なキティのイメージを抱いているのではないのであり、それにもかかわらず確かに「キティのことを考えている」のです。

考えるとは言葉で考えるのだ、という人もいるかも知れません。

 はじめて聞けばびっくりさせられるような思考の型が、心理学者リボーによって発見されている。彼は、それが予想以上に多いことを見いだした。それは、彼が「印字視覚型」と名づけているもので、観念を、それに相応する印刷文字の形で、頭のなかに見るのである。(……)
 しかも、リボーによれば、そのような印字視覚型に属する人たちは、他の人たちの思考が違ったやり方で行われることを想像することができない。
 (ジャック・アダマール『数学における発明の心理』伏見康治・尾崎辰之助・大塚益比古訳、みすず書房、2002、pp.107-108)


しかし、「醤油」のようなうろ覚え漢字の例を見れば、やはり同じ事態が生じるのが分かります。
文字イメージはおまけで言語は音声だと言ったところで、思っていることをいざ言おうとすると適当な言葉が出てこない、という事態を説明するには、やはり「音声イメージ」もまた、明示的なものではないと考えるべきでしょう。

つまり、思考とは視覚的イメージであれ音声であれ、明示的に表されたものとは一致しないものなのです。
知り合いに話したら「身体感覚的なもの」と言っていましたが、まさしくそのように、外側から近くされるのではなく内側から感じられるもの、というべきではないでしょうか。

すると、上記の漫画の中では「なんとなく頭の中で変換している」とありますが、より正確には、むしろ思考を外から読み取ろうとするとこのような「うろおぼえのビジョン」に変換されてしまう、と言うべきでしょう。

別のところである人が、テレパシー能力はたいてい「心の“声が聞こえる”」という形で描写されることに疑義を呈していましたが、これも同じ話で、思考が聴覚という知覚の一種と一致すると考える理由はない、ということです。
ただ同時に、本当に他人の思考をそのまま感じたら(上の表現で言うと、まさに考えている本人のように「内側から感じ」たら)、完全に両者の思考が入り混じって自我が保てなくなるだろう、とも言っていましたが。
これは同意せざるを得ないところで、本人同様に思考を内から感じるということはそれが「自分の思考」になるということです。他人の「痛み」も「自分の痛み」としてそのまま感じる、ということです。

『よみきりもの』のイメージの優れているのは、聴覚のイメージで描かれることの多いテレパシーを視覚イメージにして、外的知覚と思考との不一致を見事に描き出したところにあります。ここにはまさしく、「思考するとはどういうことか」に関する卓越した観察があるのです。


さて、昨日紹介したライトノベル『パンツブレイカーG』にもテレパシー能力者が登場します。

(ある種のポイントなので、一応ネタバレ、と言っておきます)



彼女――丸山香奈子送信専門のテレパシストですが、その射程は5m、しかも伝える内容を口に出して言わねばなりません。
つまり普通に聞こえるのであって、そんな能力は役に立たない、という気がしますが、ただ彼女は『よみきりもの』の岸島恵子とは逆に、内的に感じられる思考をそのまま伝えることができます。それゆえ言葉が通じない相手にも意志を伝達できるのであって、言葉を知らずに育った野生児サンダーを教育できたのも彼女の能力のお陰です。
これまた、なかなかに強烈なSF的イメージです。しかも前巻から登場していたサンダーに関する考察を進めると同時に、“人智を超えたもの”との関わりも問題になる本作ではとりわけ強力なものとなり得る能力で、終盤の展開でもある程度活躍してきましたし。

もっとも香奈子の場合、伝達内容があくまで発声した内容およびそこに関わるニュアンスに限られることによって思考の混合が防がれているのでしょうが、それで十分かどうか、およびそうして思考が伝達された時にいかなる効果が生じるかについては、なおも問う余地があるかも知れません。その点で、「見事に納得させてくれるイメージを提供した」という点では『よみきりもの』には及ばないと私は考えますが、それでもやはり、優れたセンス・オブ・ワンダーを認めたいと思います。
特に、ニュアンスまで完全に伝わると冗談もおかしくない、という辺りはかなり注目に値する考察です。


数学における発明の心理数学における発明の心理
(2002/08)
ジャック アダマール

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

まとめtyaiました【テレパシーの現象学】

唐突ですが、竹本泉氏の漫画『よみきりもの』には、読心能力を持つヒロインが登場する回がありました。彼女、岸島恵子は他人の思考がビジョンとして見えるのですが…… (竹本泉『よみきりもの』4巻、エンターブレイン、2003、p.23)かくして、ほとんどが意味不明で役に?...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。