スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

日本洋画の父

京都大学文学部の場合、学部生は3回生から各専修に所属する、という形になっているようです。
1回生はもっぱら教養課程で、2回生は各専修分野(哲学であるとか西洋史学であるとかフランス文学であるとか)の入門的講義を受講して、どの専修に進むかを決めます。
そして、3回生からの授業はもっぱら大学院と合同で、もっと言うと内容的に大学院生対象なのですね。驚くべきことに。
間は自学自習で埋める、これが伝統です。

この授業は「特殊講義」「演習」に分けられ、前者は先生の講義を聞く授業、後者は文献購読(多くの場合外国語)です。
しかも、「特殊講義」は先生が現在研究中のテーマを話すというもの。これ、文学部全体に共通する古くからの伝統らしいですね。もちろん、その分野の専門知識のない学生を対象として基本的な説明に時間を割きはしますが、先生の方も大変ではないかと思いますが……
その辺の雰囲気もようやく分かってきたところです。

 ~~~

何度か繰り返してきた話になりますが、油画修復の大家であり、私どもが3年生の頃まで愛知県芸油画専攻の客員教授を務めていた歌田眞介先生は、日本洋画の抱える問題――何よりもまず、技法的な基礎をおろそかにしてきたこと――を黒田清輝に遡るものと見ていました。これはかなりの部分、東京藝大油画科が「自分たちにろくな教育をしてくれなかった」という思いがあればこそ、開祖たる黒田が標的となっていたのではないかと思われますが……
対して、高橋由一に関しては(昔はあまり良いと思っていなかった、とも言いつつ)かなりの評価を下し、由一の研究プロジェクトにも深く関わっていました。

由一の代表作で、美術の教科書でもお馴染みの《鮭》などは、技法的にもきわめて優れたものであると。

高橋由一《鮭》
 高橋由一《鮭》

他方で、こんな縦長の絵は本来の西洋絵画にはありません。
柱にかけるためにこの形にしたという説もありますが、その発想自体が西洋絵画にはないものです。
(もっとも、東京藝大所蔵の最も有名なバージョンは120cmもあるとのことなので、柱にかけるには大きいようにも思われます。このサイズはむしろ掛け軸に近いでしょう)
つい最近中公新書で刊行された由一のモノグラフも、まずはこれらの点から始めています。

 最近、「写真みたいに」描かれたリアルな絵が流行っている。《鮭》はその元祖ということになる。しかし、由一の油絵の特徴は、「写真みたいに」というよりも「触ってみたくなる」迫真性を感じるところにある。どこが違うかというと、写真はレンズを通して光を分解し、変換したものを写した光学的な画像なので、写しだされた画像には凹凸がない。ところが、上に挙げた《鮭》のリアルな質感は、油絵の具の質感をそのまま利用して、時にはたっぷりと盛り上げ、ザラザラしたところは本当に油絵の具をザラザラさせることによって作り上げられている。つまり、写真そっくりに描かれているのではなく本物そっくりに描かれていることが、この作品の重要な点である。
 さらに大切なことは、このような特徴をもつ作品は西洋美術の伝統を見渡しても探せないということだ。とりわけ、紙を支持体とする細長い画面は、まさにこの鮭を描くために作られたことが明らかで、モチーフの姿に合わせて画面の形やサイズを決めているところなどは、常識的な西洋の静物画には見られない。
 (古田亮『高橋由一――日本洋画の父』pp.ii-iii)


由一の作品はもっぱら静物・肖像・風景で、物語性のある作品はありません。しかしそれは、由一が油絵を記録という「実用に供する」ものとして考えていたからです。

(……)洋画は、事物を記録に残すという点でもっとも優れた存在であり、それが人々の役に立ち、ひいては国の役に立つことにつながる。それが由一の考えていた洋画である美術であったということができる。
 なぜ吊された鮭が描かれ、なぜ花魁が描かれ、なぜ無造作に置かれた甲冑武具が描かれ、なぜ東北の風景が描かれたのか。その答えはすべて、由一の洋画普及事業という文脈のなかに見出すことができるだろう。
 (同書、p.iv)


「記録のための絵画」などというと、現代的考えからすれば「芸術性」を欠いているように思われますが、新巻鮭の絵が強烈な力を持つものであることを見れば、そうとも言えないことが分かります。
さらに本書には、情報のほとんどない中で洋画を学ぼうと執念を注ぎ、日本ではいち早く美術館までも構想した由一という人物の伝記が描かれます。
彼の洋画普及事業が必ずしも成功しなかったことは、もしかしたら日本洋画の不運だったのかも知れないと、かなり歌田先生流の史観に傾きつつ――

高橋由一 (中公新書)高橋由一 (中公新書)
(2012/04/24)
古田 亮

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

まとめtyaiました【日本洋画の父】

京都大学文学部の場合、学部生は3回生から各専修に所属する、という形になっているようです。1回生はもっぱら教養課程で、2回生は各専修分野(哲学であるとか西洋史学であるとかフランス文学であるとか)の入門的講義を受講して、どの専修に進むかを決めます。そして、3回...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。