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純正コント的小説――『人生』再論

時々、電子レンジに食べ物を入れたまま忘れることが……結局、食べても食べなくとも構わないからこそ忘れるというべきなのでしょうか。

 ~~~

色々考えたいことはありますが、やるべきこと、やっておきたいことは多い中、手の回らないことも多く……

今更なタイミングとなってしまいましたが、1巻発売日から紹介してきたライトノベル『人生』(川岸殴魚)のことでももう少し(1巻 2巻)。
この作品は寄せられた相談ごとに短く章が区切られ、主人公と理系・文系・体育会系の三人娘が相談に答えるべく話し合う(漫才をする)という構成からも分かる通り、コント集のようなもので、ストーリーはまったく無いとは言わないまでも、限りなく重要性は低いものです。内容を話そうとしても困るほどに。
しかし著者の作品には(当然、しばしば指摘されていることですが)大きな特徴があって、パロディ系のネタの比率が低く、特に他のライトノベル・アニメ・漫画・ゲーム等に由来するいわゆるオタクネタは少数です。
これはコメディ系のライトノベルに珍しいことです(もちろん、『ニャル子さん』のようにパロディを徹底した作品もまた、特異名芸であることは今まで論じてきた通りですが)。

そして、前作『邪神大沼』と比べても不条理な設定が抑えられ(基本的には日常系)、キャラ造型も(ギャグキャラらしく飛んでいるところはあるものの)常識的で類型的、さらに主要登場人物が主人公と三人娘+彩香部長くらいと絞られていることからいっそう際立ってくることですが、会話の連鎖で笑わせている部分が大きいのですね。
掛け合い漫才の最小要素はボケ+ツッコミということになりますが、実際、エキセントリックなキャラの単発のボケに依存する比重の大きい作品は珍しくありません(もちろん、その前後を繋いでスムーズに読ませるのは大いに力量を問われることなのですが)。
『人生』の場合も、章間に単発で相談+三人娘の回答が挟まれていることからも分かる通り、三人娘の個々の回答からしてすでにエキセントリックで笑いのネタになりますが、やはり連鎖して暴走していくところこそが持ち味で、だから主人公のツッコミは控え目で良い(むしろ、ツッコミ不在で暴走に任せている時の方がおかしかったりする)のですね。

たとえば、犬が苦手だという相談に、ふみ(文系担当)の答えは――

「私、子どものころにニンジンが食べられなかったんですね。それでおばあちゃんが、ニンジンをミキサーで細かくしてハンバーグに混ぜてくれて……」
「待て。犬をミキサーにかけるつもりなのか」
 犬好きの梨乃が涙目で食ってかかる。
「違いますよ。犬はミキサーに入らないじゃないですか」
「そういう問題じゃない」
「だからそうじゃなくて、好きなものに混ぜちゃうって話ですよお」
「……ハ、ハンバーグに混ぜちゃうのか?」
 今度はいくみが口を挟む。犬はハンバーグに混ざったらむしろ喜びそうだが、そんな話ではないことは確実だ。ふみのアイディアはなんだか深い話のような気もする。とりあえず流れを軌道修正しないと。
「とりあえず、話を聞いてみようよ」
「この方がなにを好きなのかわからないですけど、たとえばハムスターが好きだとして、いっぱいのハムスターの中に、何匹か犬を混ぜておくんです」
 特に深い話でもなかった。
 (川岸殴魚『人生』、小学館、2012、p.72)


しかもこの後、一緒になって犬を他のものに「混ぜる」やり方を話し合いますます事態を混乱させておきながら、一段落するといくみ(体育会系担当)は「こんな徐々にとか、ダメだと思う」と自分の考えを主張して、「あっさり裏切っ」て見せたりします。

はたまた、雨の日にクラスの女子が急に自分の傘に入ってきたことがあって、「なんでもないのかただの自意識過剰だったのか、それとも俗に言う『フラグ』だったのかわかりません」という相談に――

「梨乃はどう思う」
 恋愛の話がとびきり苦手な梨乃に話を振ってみる。個人的にも気になる。
「私がどう思うかよりも、どのような仮説が立てられるかが重要だと思う」
「どういうことかな」
 相合い傘について語ってもらえるものとばかり思っていたので、ちょっと面食らってしまう。
「傘に入れてほしいと思うときにどのようなケースがあるのか、ありとあらゆるケースを想定したうえで、もっとも可能性が高いものを選ぶしかなかろう」
「どんなケースが考えられるかな?」
「水に濡れてはいけないもの。たとえば精密機器なんかを持っていた」
「……夢のない仮説です」
 相合い傘に少なからず甘い想いを抱いていたふみが露骨にがっかりしている。
「夢があるかどうかではない。かなりありうるケースだと思うが」
「水に濡れると溶けちゃう制服を着ていたってケースは?」
 いくみがさっそく不必要な仮説を追加する。
「そんな制服で登校する必然性は?」
 梨乃は自分の考えをあらかわれたと思ったのか、ちょっとムッとしている。
「では、むしろ雨に濡れたから女の子になっちゃったってことにしませんか?」
 なにかが「1/2」な仮説! ふみの想像は飛びすぎだ。
 (『人生』第2章、2012、pp.164-165)


「あらゆる仮説」とはどこまでを含むのか、どこからが「不必要」なのかというのは、真面目に考えると深い問題ですが……
ついで主人公・赤松の梨乃が気になる心境が若干見て取れる場面でもあります。

とにかく、ここではいくみとふみのぶっ飛んだ回答が主なネタですが、これも梨乃の(そこまでは真面目な)振りを受けており、しかもこの後もツッコミ不在のまま、皆で(ほとんどは不必要な)仮説をリストアップしたりと暴走していきます。

こうして会話の連鎖からおかしさを紡ぎ出すというのはコントの基本に忠実で、作者の経歴は不明ですが、芸人ザ・ギースと知り合いなのも偶然ではないのでしょう。
とかく、ライトノベルにおいては意外に貴重なタイプで、この効果で、単独では類型的なキャラと見える三人娘もいい味を出しているだけに、期待しておきたいところです。

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コメント

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こんばんは。
ブログへのコメントありがとうございました。

オレも人生もってて読んでるんですが、言われてみればパロディーが少ないですね。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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