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老主人公は間違いなく貴重だが――『猫にはなれないご職業』

そろそろ、こちらに引っ越してきて2ヶ月が経ちます。
最初は家具・家電製品に相当額をかけたので、それが必要なくなった後の生活費の必要ラインは微妙な問題ですが、おそらくは予定ラインに収まるのではないかと思われます。
問題はですね。生協で買えば一割引となれば、やはりそちらで買いたいものですから。ひょっとすると仕送りの何割かはそれに消えるのではないかと……その上、海外通販はまた別枠です。

 ~~~

さてライトノベル。新人賞作品です。また少々辛口になるかも知れませんが…

猫にはなれないご職業 (ガガガ文庫)猫にはなれないご職業 (ガガガ文庫)
(2012/05/18)
竹林 七草

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 吾輩は猫である。名前はまだない。

 ――と、始められたら、かの文豪の処女作とおおむね同じ出だしになるのだが、残念ながら吾輩にはれっきとした名がある。
 (竹林七草『猫にはなれないご職業』、小学館、2012、p.12)


――という書き出しは本当に最初だけのネタで、内容は特に夏目漱石とは関係ないのですが、とにかく本作の主人公は妖怪・猫又タマです。人語と解し、しかも陰陽師である彼は陰陽師の家系・藤里家の飼い猫ですが、このたち藤里家の当主である春子は死に、残された孫娘である桜子は陰陽師という家業のこともタマの正体も知りません。
そんな状況で、桜子を守るべくタマが妖怪と戦う退魔伝です。

本作の特徴は、帯にも「おっさん猫又と美少女たちによる妖怪退治!!」とある通り、主人公がおっさん――それどころか桜子(高校生)の母よりも年上で、祖母・春子の若い頃から飼われているのですから、桜子の祖父に近い立場だということです。
(言うなれば)中高年の主人公の視点から孫のような存在であるヒロインを描く――これはライトノベルにおいては、主人公を猫にでもしなければできなかったことでしょう。この点は面白い。

他方で、展開はやけに速く慌ただしいですね。前半と後半でそれぞれ別の強大な妖怪との戦いが展開されます(両者に関係はありますが)。
そのため日常シーンなどはほとんど描かれません――ことにヒロインに関しては。それゆえ、上記のキャッチフレーズの内、問題は「美少女」の方にあります。
特に桜子については、彼女の人となりも、唯一の肉親である祖母を亡くした彼女の心境も、ほとんど説明的な口調で語られるのみです。
まあ本人も知らずに守られているだけの桜子は中空の舞台装置のようなものだとすればそれでもいいのかも知れませんが、しかしクライマックスでは彼女が活躍することになります。

桜子ほど顕著ではないものの、かえって気になるのは桜子の友達である神波命(かんば みこと)です。
上でタマが主役であり語り手であるように言いましたけれど、命も第二の語り手となり、両者の視点が頻繁に交代することになります。
実は、この視点交代がなくてもストーリーが成り立ちそうなところが多いのですが、それが意味を持ってくるところがあるとしたら終盤でしょう。

まず、タマにとって桜子たちは孫のようなものですから、基本的に彼は鷹揚です。

 ……まあ、いいさ。
 吾輩から見れば短かろうとも、若者から見れば、人生というのは長いのだ。止まりたければ、好きなだけ立ち止まったらいいさ。
 その停滞する辛さを味わうのも、後から思い出すのも、また一興というものだろう。
 命なんぞはとかくいろいろと心配しているようだがな、学校なんてのも同じだ。もう義務教育は終わっている。あとは自分で好きにしたらいいのだ。
 (同書、p.156)


しかし終盤、危急存亡の秋(とき)に、なおも心情的には祖母の死を受け入れられず家から離れないでいる桜子を動かさねばならないところで、タマの見通しの甘さが露呈します。
命がそれをフォローすることになり、そして二人はタマの「逃げろ」という忠告に反して、死ぬ覚悟を決めていたタマを救いに向かいます。
ここで桜子が祖母(偽物ですが)に「死人は、黙ってて」と啖呵を切り、命が

(……)桜子がこんな一丁前な口を聞いたらさ、
 きっと本物の春子さんは、嬉しそうに笑うよ。
 (同書、p.254)


と語っていることからも分かる通り、この展開で描かれているのは老人と若者世代と緊張関係であり、老人を乗り越えていく若者の成長であって、全ては王道の展開です。

しかし、それにしては残念ながら、若い世代――桜子と命――のキャラがあまりにも「弱い」、つまりは人格的な存在感が足りないように思われます。

ストーリーの上でも、陰陽師とは言え猫の身では力不足なことも多いタマをサポートする役に選ばれたのが命で、そのために奔走することになりますが、しかし一般人である彼女は、妖怪退治においてはタマの言うことに従うことしかできません。最後でタマの意に反するところでも決めるのは桜子です。
また、命には腐女子という設定がありますが、この設定がストーリー上で意味を持つのは、「そいつは腐っているから食うのはやめろ」と敵の狐を言いくるめる場面と、同人漫画の原稿を押収したタマが協力を迫る場面くらいではないでしょうか。
後者に関しては命が桜子を守るため自ら協力を決心しても(何しろ、すでに妖怪を目にしているのですから)あまり問題はないでしょうし、実のところ「桜子の友達」という以外のほとんどの命の設定は交換可能です。
退魔モノの漫画で得た知識ももちろん大した意味を持たず、せいぜい訊かれればたまにはまともに答えられるという程度です。

同じ「腐女子キャラ」でも、『ベン・トー』の白粉花が(おそらくはその趣味ゆえに)いじめられた経験を持ち、それゆえの他人の視線に対する敏感さを活かして時に本筋である弁当バトルで活躍しつつ、執筆したホモ小説で独自の活躍をしていたり、『僕は友達が少ない』の志熊理科が実は一番真剣に友達を求めていればこそ普段は変態の道化としてふるまっており、しかしその「本音」の方で隣人部のあり方に一石を投じたり、はたまた『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の赤城瀬菜が黒猫とぶつかり合いつつも同人ゲーム製作で協力したり、『耳刈ネルリ』のソックがその妄想力を絆でレイチと友情を結び、演劇大祭において脚本担当で活躍したりするといったレベルであっても、腐女子という設定が有機的にその人格と一体となっての活躍は、ここにはほとんど見られません。
そうした期待はいささかハードルが高いとしても、せめて一般人という設定を活かしていれば、たとえば――

 ――狐は千基の鳥居を一跳びで越えることで初めて霊力を得る、そう言われている。
 今のはまさにその跳躍だろう。ただの狐がたとえ一基であっても鳥居を越えるほどの跳躍をできるわけがなく、かといって千基を跳ばねば霊狐になれぬとはどんな矛盾かとも思うが、そんなことは吾輩が気に病むことではない。
 (同書、p.57)


これはタマ視点のパートですが、こうした妖異の設定に対する常識の立場からのツッコミを命がやっていれば、そうした漫才を通してキャラを見せると同時に、タマに「対抗」し、女主人公に順ずる存在になることもできたかも知れません。

もっともこの作品の場合、クライマックスでの「老人を乗り越える若者の成長」というもの自体が常識的なライトノベル的ドラマツルギーに準じただけで、やはり作者が力を入れているのはタマの方ではないか、とも思われます。
であれば、「おっさん猫又が主人公である」という特性の方をもっと重んじる道はなかったものか、と問うてみる余地があるように思われるわけです。

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そろそろ、こちらに引っ越してきて2ヶ月が経ちます。最初は家具・家電製品に相当額をかけたので、それが必要なくなった後の生活費の必要ラインは微妙な問題ですが、おそらくは予定ラインに収まるのではないかと思われます。問題は本ですね。生協で買えば一割引となれば、?...

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Author:T.Y.
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