オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
ある種恵まれているがある種重い進路
もちろん、これまた作中でも指摘されている通り、社会人になってからでも大学には行けます。そして、ひとまず進学しなくても仕事があるというのは恵まれた状況ですが(しかし彼らの場合は実力の賜物)、では「ひとまず進学しない」という選択をすることも含めて、決断なのですね。
「わかりますよ、先生が言いたいことは。周りに振り回されて、うじうじ決められない男に見えるんでしょうね。でも、ただ悩んでるわけじゃなくて、それもひとつの選択なんです。消極的にスパッと決めないわけじゃなくて、決めないのがひとつの積極的行為なんですよ。わかってもらえますか?」
(至道流星『好敵手オンリーワン2』、講談社、2012、p.20-21)
この時点では恋愛沙汰も(孝一郎にとっては)表面化していませんし、店舗の仕事に対する意志が強いわけでもないのですが、おそらく自分の置かれた状況を直観しての発言なのでしょう。
しかしさらに、弥生と水貴の家はそれぞれ神社と教会で、家を継ぐためには専門課程を修める必要もあります(神道学科があるのは東は國學院大学、西は皇學館大学だけというピンポイントな名前も出てきます。)。もちろん、専門課程は大学だけではありませんし、それこそ後になってからでもできることではありますが……しかし孝一郎としてもどちらかと結婚して家を継ぐとしたら……
間違いなく「進路と恋愛の問題は(……)非常に密接に絡み合っている」(同書、p.278)という状況なわけで、これは重い、そんじょそこらの進学事情など比べ物にならないくらい重いですね。
まあ、ひとまず保留ということで神道学科と神学部はやめておいたら、と言いたくなるところですが……
2巻ではビジネスの話は少なめですが、むしろ印象に残るのは飲食店の現場の話ですね。『羽月莉音の帝国』で描かれたような壮大な世の中の仕組みではなくハウツーという感じとも違いますが、小さなところでも様々な労力が重なって仕事というのは成り立っている、という生々しさをそれなりに感じさせる話ではありました。
ちなみに、大学で学ぶ「経営学」についてはかなり否定的に言及されます。
そしてラストでは一気に億単位の大ビジネスに乗り出すという話が出ての引き。
どうやってそんな資金を用意するつもりなのかはまったく不明ですが、これは目が離せない引きには違いありません。
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ついでに、『も女会の不適切な日常』の2巻についても少しだけ付言することを思い出しましたが、一応ネタバレにつき。
有理のある活躍を前にしてパン・ド・ラが「劇場のアイ・ド・ラ」と言うのですね。
フランシス・ベーコンの言う「イドラ」は4種類――種のイドラ、洞窟のイドラ、市場のイドラ、劇場のイドラです。
他方、「も女会」のメンバーを見ると、主人公の廻と救われるべきヒロインの愛を除いて4人――千種、繭、雛子、有理。
対応させてくるという展開は大いにありそうなことで、とすればやはり「皆で力を合わせて」となるのでしょうか。
それによって当初の作品の意味は少しずつ変わってくるかも知れませんが、「日常」を途方も無い努力の果てに掴み取るという話であれば、これはまた期待したい話です。
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