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未知の領域:現代アート修復

時間も体力も不足しているので、とある調べ事の断片的な成果でも書き写しておくことにします。

 驚かせるようなイデオロギーと新種の材料・技法を持った現代アートは多くの無知と無理解にぶつかる。そこから一部には真面目で、一部には意地の悪い問いが生じる――この現代アートはすでにして(そしてそもそも)修復できるのか、という問いである。
 これに対しては、誰もゴシックの板絵やバロックのパステル画――いずれも高度に傷みやすく、特殊な困難のもとでしか修復できない対象である――を、その傷つきやすさゆえに長持ちしないだろうというだけの理由でより低く見積もることはない、と言うべきである。
 (Heinz Althöfer, Moderne Kunst Handbuch der Konservierung, Pädagogischer Verlag, Düsseldorf, 1980)



現代アート修復の手引き

しかし、では現代アートの保存修復とはいかに考え、いかに取り組むべきものか。
この Althöfer 氏は初めてこの問題について主張した人らしく、管見に入った限りでは、この分野の資料というのは英語ですら全然見付かりません(誰か知っている方がいたらご教示願います)。

本書『現代アート保存修復の手引き』はこれにかかわる歴史や考え方などをまとまった形で紹介し、本の後半では作品写真付きで様々な事例も紹介しています。

現代アート修復の手引き(食品)

この写真、食べ物のパンじゃありませんか……?
左ページの文章量を見てもまだまだ断片的な話に留まっているのはお察しいただけるかと思いますが。

 これまで現代アートは、留保を伴ってはいても守られ保存されるべき物質的実現としても理解されてきた。現代アートは一方では非常に完璧であり、非常に技術的で物質に執心している。現代アートは他方で実験であり、非物質的に単なる観念に還元されてもいる。そうしたアートは現実化によって滅び去る、より広い意味でのユートピアである。
 修復に鑑みて現代アートが把握可能であるというのはもはや無理な相談である。現代アートはたえず繰り返して、そのつどの事例のみが措置を決定するという修復の原則を教えている。
 最新の現象(もはや実現ではない)にあっては、現代アートはつかの間の物質化という領域に踏み込んでいる。ミランダ・セルの食べるアート(eat art)のようなものがその事例である。美術館は冷蔵庫の機能を果たす羽目に陥っており、これらの作品のどれが今後の20~50年を耐え抜くだろうかということが問われ続けている。保存修復という点から見れば、より長い時間・空間に渡る保護可能性についてはまったく新しい局面が生じているのである。
 (Ibid., p.438)

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

アドルノがこだわった「アウラ」みたいなものでしょうか。

まるでベンヤミンとの議論を聞いているような気持ちに。

Re: タイトルなし

私の知る限りでは、ベンヤミンの言う「アウラ」とは、物理的・美的な質ではなく本物の作品の「ここにしかない」という性格のことであったかと思います。
現代にあっては、ベンヤミンの言うように複製によって「アウラが消失する」かというとそうとも言えないものの、コンセプチュアルであったりそもそも物質的な保存を想定していなかったりする現代アート作品に関して「アウラ」的なものを考えうるかというのはそれなりの問題であり続けているのではないでしょうか(私も現代美学の議論からは遠い方ですが)。

ただこの場合、さらに保存修復というマイナーな領域に関わっている(しかし修復の側としては、そうした哲学的問題をも考えざるを得ないわけですが)のが面白いところであり、面倒なところです。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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