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図らずも手に入れてしまったものを前に――『僕は友達が少ない8』

『仮面ライダー龍騎』は「正義のヒーローたるライダーが悪と戦う話」ではなく、「それぞれの仮面ライダーが自らの願いを叶えるため、ライダー同士で戦う話」でした。
その一人、終盤に登場した仮面ライダーインペラー・佐野満(さの みつる)は富を求めてライダーになった人物で、他のライダーに対しても自分を戦力として売り込んだりしていました。
ところが、そんな中で突然、父親が死んで跡継ぎとして社長になり、富も婚約者までも手に入れてしまいます。
そうなってしまえば、もはや仮面ライダーの「戦わなければ生き残れない」境遇(契約モンスターに「餌」を与えるためにモンスターとも戦わねばなりませんし、他のライダー達に狙われ続けます)は悪夢そのものです。しかし、一度ライダーになってしまった者は死なない限り降りることはできません。
結局、彼は最後、ライダーバトルの舞台となる鏡の中の世界から戻れずに、鏡の向こうの婚約者に向けた呼びかけも届かないまま死んで行きます。
死んでいくライダーたちの中でも、彼の場合は「図らずも」途中で願いが叶ってしまったことによる悲劇でした。

京極夏彦氏の「百鬼夜行」シリーズにおいては、京極堂の憑物落とし(ミステリとしては謎解きに当たります)はたいてい最終的な破局を齎します。
作中のある比喩に曰く、ずっと重い石を担い続けてきたのならば、その重さによって様々な歪みをきたしているわけですが、急に石を取り除けられたら、その負荷の変化に耐えられないと――


そんなわけで長い前置きでしたが、ライトノベル『僕は友達が少ない』8巻も、“図らずも”呪いが解け、願うものを手に入れてしまった者の感じる恐怖から話は始まっています。

 どんな因果か。
 なんの奇跡か。
 はたまたなにかの間違いか。
 どういうわけだか、幸運にも手に入れてしまったとしたら。
 自分の居場所を――世界を。
 ぬるま湯のように心地よい世界を。
 これまでいくら求めても手に入らなかったものが突然、唐突に、あれよあれよという間に自分の手の中に転がり込んできてしまったとしたら。
 や、もちろんそいつだって、べつにまったく努力してこなかったわけじゃない。
 周囲からの誤解を解いて友達を作るために、そいつなりにいろいろやってきた――つもりではあるのだ。
 でも――「これは自分の努力が報われた結果なのだ」と素直に喜んで享受するには、そいつが突然手に入れたものはあまりにも大きすぎた。
 それを踏まえた上で考えてみてほしい。
 想像してみてほしい。

 そこから踏み出すことの意味と――――その恐怖を。
 (平坂読『『僕は友達が少ない8』、メディアファクトリー、2012、pp.13-14)


僕は友達が少ない 8 (文庫J)僕は友達が少ない 8 (文庫J)
(2012/06/22)
平坂読

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表紙からして、今までヒロインの不機嫌顔を揃えてきたのがこの笑顔。いかにも何か起こりそうである種不気味です。
ちなみにいつも以上に夜空と見分けが付きにくいですが、理科です。

もう当然のように書店にも平積みされており、いつが発売日なのか不明瞭になってきましたが、ひとまず若干のネタバレを含む内容は以下に。


遡って、前の7巻では生徒会会計・遊佐葵(ゆさ あおい)「リア王」(=リア充の王)こと生徒会長・日高日向(ひだか ひなた)という新キャラが登場し、カラー口絵にも姿を見せていました。
日向の方は本当に姿を見せるのにでしたが、葵は星奈は「りあじゅう」で(これはある意味で合ってますけど)、小鷹を星奈の「カレシ」だと思っており、さらに小鷹を「ちょいわる系」で「かっこいい」男子だと言う等、一から十まで半歩ずれた認識の持ち主、その上に「自分は知っています」という口癖が、必死で地球のことを勉強している宇宙人のような独特の印象を与えるキャラでした(素でもっと変なキャラは他にもたくさんいますけれど…)。
星奈をライバル視し、小鷹を「カッコいい」と思っているなら、隣人部にちょっかいをかけてくる要素は揃っているわけでして、生徒会の干渉が事態を動かすのか――と思われましたが、しかし8巻において、葵の二度の干渉は結局、隣人部を揺るがすには至りません。
ところが、乗り切ったと思ったところで思わぬところから……
そう、元々問題は、自ずから生じてしまう変化と、それを受け入れて歩を進めることに対する恐怖だったのですから。いつだって火種は自らの内に。
(生徒会のストリー上の役割はむしろ、火種が生じた後でした)

変化と言ったところで、改めてこの巻の展開を見ると、話は体育祭が終わったところからで、翌日からいよいよ学園祭です。隣人部は自主制作映画を公開する予定でしたが、CGで仕上げ作業を行っていた理科が倒れ、上映は中止という隣人部らしい「残念な」結果に。学園祭が終わるといつもの学園生活に戻ります。
ストーリーに大きな動きのある今巻ですが、前半部は今まで通りのギャグも健在で、特に一番長いエピソード「友達つくりゲーム」はモノポリー系(すごろくに何らかの要素を加味したもの)のゲーム「友達つくりゲーム」をプレイするのですが、友達を売買したり、お金や友達を「消費」してアイテムを使ったりするというゲームのイカれた仕様に始まり笑いが満載。「自分の命よりも大切な正義があるのだ! 貴様を殺すためならトモちゃん2号も喜んで犠牲になってくれるだろうさ!」(p.133)等は1巻の「人を殺す時だけ生きていると実感できる!」に続く名台詞でした。

しかし、そんな中でも明らかなのは、皆が明らかに仲良くなっていることですね。
体育祭で(空気を読まず)無双の活躍をしてしまって「夜空がもっと出てたら楽しめた」という星奈と、来年は「気が向いたらな」という程度ではあるものの、満更でもなさそうな夜空。
理科が倒れたと聞くと、「最初は七人で観なければ、意味がない」と言って上映会の中止を決める夜空。
また、夜空と小鳩のような、今まで絡みの少なかった組み合わせでも今まであまりなかった場面が見られます。

「ええ!? なんで夜空黒歴史ノート〔引用者注:「友達つくりゲーム」のアイテム名〕2つも持ってるのよ!?」
「……ふ……ゲームでも私は黒歴史に恵まれているようだな……」
「ククク……黒歴史に愛され者……かっこいい……」
 自嘲気味に言う夜空に、小鳩がなぜか尊敬の視線を向けた。
 (同書、p.133)


僕は友達が少ない8
 (同書、p.163)

本作は「反復」という日常の重要な要素を実に巧みに使っていて、皆でゲームをやるなんてのも何度となく繰り返している展開ですが、それを通して、同じようなことを繰り返しているようでも状況が変化し続けていることを見事に描き出しています。

隣人部を取り潰そうとする葵の襲撃も、夜空の弁舌と星奈の権力が見事なコンビネーションで撃退します。この二人がいれば大丈夫……そう思った矢先の内部からの火種というのが素晴らしい。
そして今更のような話ですが、もはや言うまでもなく、火種とは恋愛関係です。

「え? だって隣人部って男子は羽瀬川くん一人しかいないじゃないですか。部内に一人しかないこんなカッコいい男子が特定の誰かとお付き合いしだしたら、部活の仲の空気がギスギスしちゃいますよ」
 (同書、p.220)


「いわゆる“ハーレム”的状況が、実際にやるとそんなにいいものでもない」という話というと、私が今でもまず思い出すのは志村貴子『敷居の住人』です(『敷居の住人』 ~「君も生きていていいんだよ」~隠蔽されるホモソーシャル辺りを参照)。
もちろん方向性は大きく違っていて、『敷居の住人』は女性作家ならではの女のドロドロしたところを描いていますし、主人公の千暁もフラられたりしていますし、その代わり普通に男友達はいます(ただし、女性関係で揉めることも…)が、しかし小鷹としては多分、ギャルゲーの主人公に男友達がいることを問題視した時からずっと、まさしく『敷居の住人』に描かれたような異性に包囲される閉塞感を予感していたのではないでしょうか。
そんな時に何ができるでしょう。

終盤、「優しさだけでモテまくるハーレムラブコメの鈍感主人公ですかあなたは!」(p.280)と問い詰められた小鷹は応じます。

「そんなもん――なれるもんならなってみてえよ! 優しさと鈍感さだけで何から何まで大事なもんを全部ハッピーエンドにしてやりてえよ! でもそれができねえから……どうしようもならないこと、物語の主人公なんかじゃない俺にはどうしようもできねえから、こうしてここでどうしようもなく困ってるんだろうが!!」
 (同書、p.281)


あまりにもメタなやりとりであって、小鷹は現に主人公であって、結局は何とかしてしまうんだろう――と読者としては思うところです。
しかし、注意しておくべきはこの8巻最終エピソードのサブタイトルが「プロローグの終わり/羽瀬川小鷹が主人公になるとき」だということです。小鷹はここでようやく、主人公たることを引き受けねばならないのです。
すでに他所で言われているのを見ましたが、これはまさしく、ハーレムという状況が実現してしまったらどうなるか、どうするか、というSF的考察です。
あるいは、(正義の味方という意味での)ヒーローは往々にして、ヒーローに「選ばれて」しまってから、それに相応しく実力や自覚を持つことを求められますが、ここにも(主人公という意味での)ヒーローになってしまった普通の人間の苦悩があると言えるかも知れません。

ただし――小鷹の自己認識を見ていると、そこまでは自分が“無力な凡人”であることを認めてはいなかったのかも知れません。

 平和だったグループが、ふとしたきっかけで崩壊しそうになっている――こんなとき、普通はどうするんだろう? 世の中のリア充の皆さんは、一体どうやって問題を解決しているんだろう? 構築している人間関係が多ければ多いほど、つまりリア充な奴ほど、こんな状況は何度も経験してるはずだ。だったら誰か教えてほしい。普通の人にとってはありふれた出来事でも、友達がいない俺にとっては初めての一大事なんだ。
 (同書、p.243)


自分は「“ぼっち”という特別な人間だから」というのがここでは言い訳になっています。
しかし、他者との関係はそのそれぞれが特別なものであって、「特別な人間」だから免除されることなど、あろうはずがありません。
そろそろ――夜空のリア充に対する過度の敵視などを見れば、読者としても気付かざるを得なかったかと思いますが――「リア充」と「ぼっち」という二分法をも問い直す時が来ているようです。
そもそも、そうして自分達を「ぼっち」とカテゴライズすることで境界を画定するようなやり方が、「もう友達になっている」現状を認めないことで安定を守ろうとするような歪みを生み出したのではないでしょうか。それは結局、日常に生じ続けている変化からの逃げになるより他ないのです。

さて、隣人部の危機に逃げ出すヘタレの小鷹を殴って叱り付けるのは、やはり前巻で存在感を見せ、今回表紙を飾った理科ですが、聡明な彼女もここでは合理的にのみ話を進められるわけではありません。話の綻びを突かれて逆ギレする場面も見られますが、それとも当然、友達という固有の他者との関係は「公式」を限りなく超えるものですから。
だから、どうしたらいいのか「教えてほしい」と言ったところで、マニュアルのように答えを教えてくれる相手はいません。だからこそ、友達を頼る意味もあります。

そんなわけで「残念系コメディ」が「ついに終幕」して、次巻に続きます。
最後になりましたが帯をご覧あれ。

僕は友達が少ない8 帯

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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