オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
ライトノベル的普通をだれも教えてくれない
3巻のあとがきにはこのようにあります。
そんなこんでラブコメ第三弾でした……とか書いてればその内それっぽくなるかなと思いましたが、さすがに言い張るのも無理がでてきました。とにかくモテないもんな、この主人公。
(入間人間『トカゲの王III ―復讐のパーソナリティ〈下〉―』、角川書店、2012、p.304)
「モテない」理由は、顔は悪くないながら学校では「中二病」的言動のために避けられているとの評があったり、そもそも同年代の女子は巣鴨と幼馴染の鹿川成美(しかがわ なるみ)くらいしか登場しないとか、やはり年長の女性陣には中学生は子供すぎると推察されるとか色々ありえますが、それだけではない――いや、それよりももっと単純なのかも知れません。
たとえば、3巻で登場する金髪碧眼の美少女・海亀産太郎(ネット上のハンドルネーム、3巻表紙右↓)のケースなど――
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一応超能力者の一人で、石竜子と同じところに囚われていて、一緒に脱出することになった彼女。「あたし」「あんた」口調と言い、氏の作品には珍しいくらいライトノベルのヒロインらしい性格で、本作中ではかなりまとも、かつ人の良い部類に入る人物でもあります。
加えてそこそこ便利な超能力の持ち主でもあり、石竜子は仲間に誘いますが、協力を確約するには至りませんでした。
とは言え、今後も出番がある可能性は高そうで、そこで敵になることもあるまいとは思われるのですが、しかし一日一緒に逃避行をやっても「吊り橋効果」でフラグが立ったりする気配はありません。
彼女も石竜子より2つ上の17歳とのことで、ただでさえ男子が子供っぽく見える年代にこの差は大きいのかも知れませんけれど、多分それが本質的なことではないでしょう。つまり、そうそう「フラグが立った」りしない、これが普通なのです(もっとも、幼馴染の成美の場合もそうですが、ライトノベルとしてはむしろここで「フラグが立って」いる方が「普通」なくらいであって、改めてライトノベルとは何かを考えさせる話ですが)。
そして、その方が良いのかも知れません。
実際、今後彼女が協力することになるとして――人を騙してでも成り上がり、「『神』すら騙し、『王』となる」(3巻あらすじより)ことを目指す石竜子ですが、しかし自分に惚れた女を騙して利用するのは彼にはハードルが高いように思われます(モラルの面でと言うよりは器量の問題で)。
この点に関しては、彼は巣鴨という「悪い女」に承知の上で「騙されて」いる方が似合いのように思われます。
大体、巣鴨という最大の悪人がヒロインであるこの話で恋愛沙汰など、良いことの起こりそうな気配がまったくありません。死期が近付くだけでしょう。
主人公とヒロインが悪人路線を標榜することで、恋愛事情に絡め取られることの恐ろしさとそれに伴う制約がかえって浮き彫りになっているのではないかと思い、取り上げた次第です。
さて、『僕は友達が少ない』の場合、恋愛事情に決着をつけると言われると、もう一つ気になることが生じてきます。
小鷹自身の気持ちはどうなのか? という。
朴念仁で恋愛のことが分からないのは分かりますが、それにしても肝心のところが見えない印象は強いですね。
そうして見ると、本作の一人称語りは、たとえば『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『耳刈ネルリ』のように露骨に婉曲やネタを重ねて韜晦するのでもなく、『涼宮ハルヒ』のように(本当はハルヒが好きなのに朝日奈さんが好きだという)見え見えの嘘を吐いているのでもなく、朴訥な口語調で、かつ極限まで単純化された文章はテンポ良く読ませますが、あまりにも透明に過ぎて主人公の真情は半ば素通りされていたことに気付きます。
結局、小鷹の役割は第一には、ヒロイン達の可愛い姿やドタバタ喜劇を伝える「カメラ」だったのでしょう(このことは、ヒロインが互いに揉めるばかりで主人公には暴力が向けられないという、一般的なラブコメからはややズレた構図とも繋がっています)。
ヒロインの可愛さやお色気ハプニングを目の当たりにしてその場では動揺するもののそれ止まり、(読者にはサービスであっても)妹や幼女の裸には無反応――いや、後者は当たり前なので余計にカモフラージュされてしまいますが、他のメンバー同士に関しては同じようなドタバタを繰り返す中で仲良くなっていくのが――明示的に説明されずともよく分かるほどに――さり気なく丁寧に描かれているにも関わらず、小鷹自身の心情は実のところ中抜きされていたのではないでしょうか。
ヒロイン達の気持ちを語る台詞がはっきりと書かれて「よく聞き取れなかった」等と添えられている表現はあまりにもわざとらしさが感じられましたが(もう少し暗示的にしたって伝わらないことでもないでしょうし)、それも「あえて聞こえないフリをしていた」ことの布石となりました。とすれば、この心情の中抜き具合も……
「羽瀬川小鷹が主人公になるとき」という章タイトルは、カメラ役を脱却して内面を伴う行動する主人公になる、という意味もあるのかと考えてみたりします。
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