オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
悪になる覚悟をするとは
無論、主人公がヒロイン(達)に「頼んで力を借りる」タイプの話なら、たとえばここで取り上げてきた作品だけでも『俺がヒロインを助け過ぎて世界がリトル黙示録!?』とか、『も女会の不適切な日常』(2巻、ネタバレ注意)など、さほど珍しくもありません。
そして『トカゲの王』の場合も、石竜子が信頼関係に基づいて海亀の手を借りつつ、いい雰囲気になることも不可能ではないかも知れません。
しかし、元々殺し屋という人の命を踏みにじる立場にありながら、「(憎む相手である)巣鴨のようにならない」という一念から「他人を利用しない」と決意するナメクジと、最近まで一般人の中学生でありながら、他人を利用し、巣鴨を利用してでも目的を果たそうとする石竜子との対比が2,3巻の軸であったことを考えると、石竜子にとって「無償の個人的な関係から力を貸してくれる仲間」はむしろ遠のいているのではないか、と思われます(酷い目に遭わせれば能力が覚醒するかも、等と期待していたりする巣鴨の無償の悪意を除く)。
実際、ナメクジは誘拐のターゲットとして狙っていたはずの元AV女優・猪狩友梨乃(いかり ゆりの、芸名)と不思議な仲間関係を築いており、一般人の成美もナメクジの「人殺し」たる本性を知って一度は怯えながらも、なおもどこか懐いています。対して、石竜子にとっては一番親切にしてくれた仲間は海亀でしたが、それも共に囚われていて脱出するという理由があればこそで、別れるのも早かったですし(3巻ではその後合流しないまま)。
悪人としての成り上がりを目指すとはそういうことなのでしょう。
まあただでさえ入間氏の描くものの場合、仲間関係といったところでどこかシニカルなところのあるものですが。
そうそう、猪狩友梨乃。元とは言えAV女優というのは、ライトノベルでそうそう見かける設定ではありませんが、これは「ヒロインは処女でなければならない」という「オタク文化特有のマナー」(飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』、青土社、2012、p.47)とも無関係ではありますまい。
もちろん『トカゲの王』においても友梨乃はメインヒロインにはなりませんが、女性キャラクターを売りにするならヒロイン(候補)は多くて損はないと考えるのなら……
石竜子も友梨乃の出演するAVを観ていて、「ビデオで裸をよく知っている人」を目の前にする当惑なんかはそれなりに生々しく描かれていました。巣鴨を「好きにしなってしまっている」ことと言い、その辺の心理描写は控え目ながらさすがで、この点ばかりは「中学生らしい」かも知れません。
他にも、AV女優という職業に対する中学生女子の反感とか、この点に関係して描かれているネタは少なくなくて、しかも彼女は超能力者でもあって、AVとは別に金持ちの黒い世界に関わる仕事をしていたりもするのですが、にもかかわらず読者から見ると真人間の側から数えた方が早い印象なのが面白いところでもあります。
処女だが大悪人の巣鴨とどちらがいいと思うかは各自の嗜好にお任せしますが(もちろん、現実的な問題ではなく、キャラとしての魅力という意味で)。
他方で、その分、AVと聞いて口ごもったりするナメクジの「可愛い」ところが強調されている感もありますけどね。
さらには戦いで敵の男にキスをして倒し、
「さっきのがファースト、キス、だったかな」
(入間人間『トカゲの王II ―復讐のパーソナリティ〈上〉―』、角川書店、2012、p.193)
おまけにめっぽう強くて格好良いですし。
何の話をしていたのかよく分からなくなりましたが、今日はこの辺にしておきます。やることも色々ありますし。
<<最大の仕事とは…… | ホーム | ライトノベル的普通をだれも教えてくれない>>
テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育<<最大の仕事とは…… | ホーム | ライトノベル的普通をだれも教えてくれない>>
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL
| ホーム |