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「得意/苦手」の幻想

「“原子”と“元素”の違いって分かりますか?」

いきなりですが、こう訊かれたらなんと答えますか? ちょっと考えてみて下さい。

私も調べてみようかと思ったものの、交流が狭いせいもあり、唐突にこんなことを言い出しても誰も聞いてないことが多いので、結局それ程の事例は集まりませんでした。
ただやはり、「化学は苦手だから…」「勉強してこなかったから…」という人がはいますし、「化学の用語だ」と説明されると「それは全然分かりません」。
しかし実は、これは関係ありません。高校や大学入試の「化学」がいくら得意でも、それどころか化学を専門にしていても、そんなことを考えたことがない人はたくさんいます(専門に近い人が私の身内にいますから)。確かに、用語の意味を訊かれたら説明できなくても、今までの通例通りに用語を使って行けば化学はできるんですね。

気にかかるのは、つまり「自分は今まで『化学』という科目の勉強が得意ではなかった――授業がよく分からなかった・試験で点が取れなかった(あるいは履修してもいなかった)」ということと「今、化学に関係あるらしい問題を出されたが、答えが分からない」ということ、2つの実は全く別の事実が「同じ科目名に関わっている」というだけのことから結び付いて、「自分は化学が苦手だから…」という包括的な説明が成り立っていることですね。

数学の先生も言ってました。
「芸大で教えてると面白いですね。皆数学が苦手だと思い込んでるだけなんですね
本当は「苦手ではない」とすると、やれば皆数学の試験で高得点を取れるか。そうはいかないでしょう。試験をやれば点の差は出るでます。特に入試のような「ふるい落とすための試験」では、皆が高得点を取ったら意味がありませんから、万一そんなことが起こったら、また差を付けるための問題が工夫されることでしょう。
とすれば、この場合「得意/苦手」という言葉は「試験で点が取れる/取れない」とは違う意味で使われていると考えるべきでしょう。(結局、数学の先生に直接聞いてはいませんが)

悪意篇で文系・理系の区別について言ったことと被りますが、受験のための方便として「試験で点が取れるか」を考えるのも結構だと思います。ただ、それを実体化して「自分の能力」を決め込んでしまうことは賛成できません。
さらに、こういう(実は専門家でも説明できないことがあるような)用語法から何となく「よく分からない」と感じて、それがつまづきの種になることもいかにもありそうです。そういうことを分かったような顔をしてスルーできる人間が有利で、一方ではこんな所で引っ掛かっている人がいるとすると、実に寂しく、勿体ないことです。
もっとも、そこで「つまづいている人」に大きな可能性を感じて「救うべきだ」と考えるか、むしろそういうことをスルーできる才能を評価するかは、教育観の分かれるところかも知れません(野口悠紀雄氏が『超・勉強法』で丹羽健夫氏に寄せていた批判など)。ただ私は、「スルーできる人」は放っておいても大丈夫なんだから、重点的に手間をかける必要はないんじゃないかと思いますが。

(解)
元素…万物を構成する基本要素。限られた種類の元素が組み合わさって様々なものができていると考える。元素自体が「どのような性質のものか」は指示していない。
原子…元素が「どのようなものか」に対する考えの1つ。万物は微小な粒子でできているとする。
現代の化学用語では、「元素=原子の種類」として使います。

(追伸:「原子」と「元素」の違いについては、この話を書いている途中で昔読んでいた化学の参考書に書いてあったことに気付きました。化学の教科書にも常に書いてあるとは思えないんですが、非常に親切でレベルの高い参考書でしたからねえ。私自身、そのことはすっかり忘れてこれを書いていました)
                           (芸術学2年 T.Y.)

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Author:T.Y.
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