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揚げ足取りの道

たしか養老孟司氏が対談で、「ソクラテスほど嫌な奴はいない」と言っていましたね。
何しろ奥さんが「あたなは無実なのに有罪判決を受けて殺されるなんて」と言えば「じゃあお前は俺が本当に罪を犯して殺された方が良かったというのか」と返す、助けてやると言われれば「悪法も法なり」と断る――と。
ソクラテスの最期を伝える『ソクラテスの弁明』はプラトンの最初期の著作で、おそらく生前のソクラテスについて比較的忠実に伝えているものと思われます。そこで描かれるような、自分の命よりも他人の揚げ足を取ることを優先する「嫌な奴」こそ、多分ソクラテスの真髄だったのでしょう。
プラトンも時とともに、次第に体系立てて自分の考えを述べるようになりますが、初期の対話篇と来たら……
たとえば、『ソクラテスの弁明』の前日譚として書かれた『エウテュプロン』においては、メレトスに訴えられているソクラテスが、「敬虔とは何か」をよく知っていると称するエウテュプロンと出会ったので、今度の訴訟対策として「君の弟子になって」敬虔とは何かを教えてもらおう、等と言うのですが、しかしエウテュプロンの述べる「敬虔」の定義に次々と揚げ足を取っていきます。
最後には、

 エウテュプロン まあ、それはまたこんどのことにいたしましょう、ソクラテス。いまは急いで行くところがありまして、おもうお別れしなければならない時刻なのです。
 (プラトン「エウテュプロン」今林万里子訳、『プラトン全集1』、岩波書店、1975、p.45)


エウテュプロンも逃げます。

しかし多分、これこそが哲学の第一歩。モンテーニュ「われ何を知るか」と言っている通り。

して、養老氏は「なんでこいつが殺されなければならなかったのか分かる」と言うわけですが、しかしそんなソクラテスが70歳くらいまで生きることができたアテナイの街は、多分かなり住みやすい方の都市だったのでしょう。スパルタであればこうは行かなかったと思われますから。
それが晩年になって殺されることになりました。

 わずかばかりの時間のことで、アテナイ人諸君よ、諸君は悪名を得、とがめられるだろう。この国の人間を悪く言おうとする者によって、諸君は知者のソクラテスを殺したというので、非難されるだろう。むろん、知者だということは、たといわたしがそうでなくても、諸君の非をとがめだてしようとする意図から、かれらはそう主張するでしょうからね。とにかく、もう少しの間待てば、諸君の望む結果が、ひとりでに得られただろうにね。なぜなら、ほら、諸君の見られるとおり、わたしの年齢は、生をすでに遠くまで来ていて、死に近づいているのです。
 (『ソクラテスの弁明』田中美知太郎訳、『プラトン全集1』、p.106)


これはアテナイが寛容さを失ってきていた印だとすれば、プラトンが後の『国家』で国政というものは放っておけば悪くなるものだと主張するのも頷けるというものです。

……われわれの社会はどうであるか。

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コメント

No title

養老猛司氏の意見に賛成。
人間は結婚するのが義務である。故に、売れ残りのクサンチッペと結婚する。ってふざけんな。
おまけに自分の奥さんを 歴史に残る悪妻にしちゃった。
人生の最後に好物のイチジクが食べたかったのに、妻ったら、肉を持ってくるんだもんなあ。なんて、最後まで愚痴ってるし。

No title

ソクラテスは嫌なやつだ。哲学史上こんな嫌なやつはいないだろう。だから歴史上もっとも偉大なのである。こんなことを真顔でしゃべるわたしも嫌なやつなのかもしれない。

そもそも、ソクラテスがいなかったら、デモクリトスのごとく哲学は単なる「人生訓の寄せ集め」でしかなかったと思う。そのような人生訓というものが、いかにあやふやで根拠に乏しいものであるかを明らかにしたことは、ソクラテスの最大の功績であり、その言動が未だ現代性を失っていない証である。こんなことを真顔でしゃべるわたしも(以下略)

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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