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自衛隊と政治的コミットメント――『君が衛生兵で歩兵が俺で』

なかなか書く準備が整いませんでしたが、またライトノベルです。

君が衛生兵で歩兵が俺で (スマッシュ文庫)君が衛生兵で歩兵が俺で (スマッシュ文庫)
(2012/06/23)
篠山 半太

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すでに言われているように、作者が予備自衛官ということも売り文句の一つになっている異色作です。
主人公・大嶽隼人(おおたけ はやと)が通うのは「陸上自衛隊武山(たけやま)高等学校」――少年工科学校をモデルとした、大学でいう防衛大学校に相当する高校です。ただし生徒の身分は防衛大(防衛省職員)と異なり自衛官となります。
大嶽はある日、磯鷲音矢(いそわし おとや)――作中でも言われている通り男のような名前ですが、ミス武山校の美少女(衛生科)です――がアメリカ兵に絡まれているのをきかっけに仲良くなる――とここまでがプロローグで、この辺はライトノベルらしい出だしです。さらに、武山校校長にして防衛大臣の繭川巴(まゆかわ ともえ)がまだ30台の美女というのも「らしい」趣向です。

しかし本編のストーリーはと言うと――ある日突然、首相と官房長官がテロリストによって暗殺され、繭川が首相臨時代理に就任して、大嶽と音矢、それに一つ年上の同級生である倉木さんの三人は繭川校長の親衛隊に抜擢されてしまいます。
これは「国のため戦う少年少女」を看板に使うという繭川の戦略によるもので、特に美少女の音矢は広報アイドルとしてテレビに出演したりと活躍したりといったネタも交えつつも、そもそもテロリストによる首相達の暗殺そのものが繭川の陰謀であるらしいことも仄めかされ、展開されるのは「憲法第9条改正」を目指す繭川の政変を巡る、ハードで血腥いストーリーです。
政変直前に武山校の弁論大会で「憲法第9条改正に賛成か反対か」が論じられて、賛否両方の主張がある程度まとめられた後でこのストーリーと、基本的な運びもしっかりしています。

さらに、ここで繭川の最大の動機となっているのは、イラクに派兵されていた同時の出来事です。

 ……部下達の死は、すでに指揮所の知るところとなっている。
 そして彼女は、事件を把握した防衛庁が取るだろう解決策を充分に理解していた。

『イラク派遣部隊における事故死、六名』

 そこには戦死という名誉、守られるべき真実もない。
 ただでさえ違憲と言われ続けてきた自衛隊が戦死者など出しては、今後の『国際貢献活動』にとって不都合だ。
 そのためには、事故死ということにして真実を封印してしまうのだ一番いい。
 断言してもいい。これから自衛隊がどれだけ活動を続けようと、他国の軍隊で何名死のうと、自衛隊から『戦死者』が出ることは絶対にない。
 (篠山半太『君が衛生兵で歩兵が俺で』、PHP出版、2012、pp.132-133)


まあ「事故死」はあっても「戦死」は記録上今まで存在しないのは事実なわけで、かなり生々しい話なのは間違いありません。

 ―――

ちょっとこの辺で一端ストーリーから離れて、小説としてのスタイルについてざっと述べておきましょう。
ハードなストーリーのライトノベルは(「ハード」の意味にもよりますが)他にもないではありませんし、『羽月莉音の帝国』のように政治的テーマに関わるものもありましたが、本作にはそれとは別のところで「ライトノベルらしさ」が希薄なのを感じました。
つまり、たまたま学校一の美少女と仲良くなるとか美人の校長とかは確かにライトノベル的趣向なのですが、裏を返せば、ライトノベル的にカリカチュアライズされたキャラ造型の“濃さ”があるのはその二人――まあ語り手でもある大嶽を含めて三人――くらいで、他はキャラ像にせよ心理描写にせよあっさりしていて、怒涛のストーリー展開が中心になっている印象が強いのです。
それどころかメインヒロインの音矢にしても、「ミス・パーフェクト」のあだ名を取る優等生で、

 ヘリで一緒に乗っていた俺としては、ピリピリしていていかにも友達少なそうだなあ、というのが正直な感想だった。
 ミスコンのときはさすがに外してたけど、けっこう度がきつそうなメガネかけてるし。
 (同書、p.23)


と言われている印象は実質的にはほとんど描かれず、助けてからあっという間にそこそこ仲良くなっているところが描かれます。

表紙はアイドル活動を始めてからはのイメージなのか、眼鏡を外して明るい印象ですし、眼鏡をかけていた時の――しかも任務時の――イラストでさえ、

磯鷲音矢
 (カラー口絵より)

そこまできつそうな印象はないのですが、まあこれはイラストのせいということにしておきます。
序盤の弁論大会で音矢と対決、大嶽達とともに繭川親衛隊に入り、終盤の「戦争」では袂を分かって去っていく倉木さんにしても、イラク派遣時から繭川と近しい立場にあり、事実上主人公達の上に立つ指揮官となる篠山区隊長にしても、人物像の印象は強くはありません(ちなみに、このいわばもっとも過激な立場にある人物である篠山区隊長のフルネームが作者の筆名と同じであって、物語の語り手である大嶽は必ずしも繭川の立場に共感していないところに、巧妙な距離の取り方が窺えます)。

サブカルネタの多さも公式での煽り文句にまでなっていたことです、たとえば「集団的自衛権」を認めない「日米同盟」についての説明で、

 分かりやすく、俺の好きなとあるアニメにたとえてみよう。
 たとえば、第七使徒イスラフェルが横須賀の在日米軍基地を襲ったとする。
 だがその時点では、自衛隊は手も足も出せない。攻撃されているのはあくまでアメリカで、日本そのものが攻撃されているわけではないからだ。
 しかし米軍の反撃でイスラフェルが二つに分かれ、その片割れがすぐそばの海自を襲ったとすれば、それは『日本国』に対する反撃だ。
 その時点ではじめて、自衛隊反撃に移ることができるのである。
 (同書、p.59)


名指しが多い(ここで使徒の名前まで出さなくても説明は成り立つのではないか)といった点は気にならないでもありませんが、使い方は悪くないでしょう(ちなみに、敵が人間ですらなく使徒である場合に「戦闘行為」と言うのかどうか、といった疑問はここでネタに走ることによる不可避の結果であって、瑕疵ではないでしょう)。

文体の面で気になるのは、「」に入った台詞の中での改行が多いことでしょうか。
ある意味で、くっきり区切った軍隊口調には相応しいのかも知れませんが。
ちなみに、中盤には音矢が特撮マニアであることを露呈、分野の違いんためか大嶽にはついて行けなくなったりする場面も(そのほかにも随所にネタはありますが)。たとえば、主演する広報番組『超防衛☆アーティクルナイン』の主題歌を歌うことになった時、

 収録前、プロの歌手を使ってもいいと音響監督に言われた音矢は、こう返していた。

「てつをソングの良さが分からない人は、ゴルゴムの手先だと思っています」

 その一言で、主題歌の歌手は一発で音矢に決まった。
 俺にはまったく分からない世界だった。
 (同書、p.145)


「ゴルゴムの仕業に違いない!」はあまりにも有名なネタですが、そこにあの名曲も絡めてくる辺りが愛を感じさせますね(※)。

 ―――

さて、ここからは自衛隊と9条問題という本作の表向きのテーマからは半歩外れた読み筋を提示させていただきます。
首相と官房長官を暗殺したテロ組織の名前は「赤い十月」で、しかも「人民党」と繋がりがあると言われている――と、これはもちろんロシア革命ネタですが、しかしソ連崩壊から20年以上経った現在においてそのソ連を建国した共産主義を悪役にすることにアクチュアリティがあるはずもなく、だからこそこの政変は繭川の自作自演で、「赤い十月」には実態がないことが示唆されているのです。
他方で、以下のような記述を見ると人民党のモデルはやはり日本共産党のようですが。

 戦後すぐの人民党は、かなり過激なテロ集団だった。
 だが、今の人民党は戦後の議会制に合わせた政党に生まれ変わり、『政府権力が暴力に訴えないかぎり』、議会主義を貫くという立場を取っている。
 (同書、p.202)


他方で、繭川の所属する政党は「国民社会主義労働者党」であって、これはどう考えても国家社会主義ドイツ労働者党=ナチスを念頭においたネーミングです。さらにトップの肩書きが「総統」で党のシンボルマークがカギ十字であるという段に至っては、ブラックかつ露悪的なジョークなのは間違いありません。
社会主義の名を関した政党ばかりが目立ちます(他に「政改党」も登場しますが)が、イギリスの二大政党の一つが労働党、スウェーデンでほとんど単独政権を握り続けているのがスウェーデン社会民主労働党であるといった例を見れば分かるように、これ自体は必ずしも妙なことではありません(薬師院仁志『社会主義の誤解を解く (光文社新書)』辺りを参照)。

問題は、社会主義だろうが自由主義だろうが、そもそも政治綱領などほとんど問題にならないことです。

「私は防衛省にいた時代、人事交流で高校の社会科教師をしていたことがありました。
 そのときに独学で研究し、産みだした思想が我が党の『国民社会主義』です。
 詳しくは本も出しておりますので、そちらも参考になさってください。
 選挙がありますので、本が売れると大変助かります」
 (同書、p.188)


と繭川は語りますが、それ以上に「国民社会主義」の内実が語られることはありません。
問題になることはほとんどただ一つ、憲法9条の改正のみです。

ここで、ヒトラーとの対比は別の意味で示唆的です。
ヒトラーはワイマール憲法を廃止していません。ただ、総統に全権を委任する「全権委任法」がワイマール憲法に違反していながら成立し、誰も文句を付けなかった時、事実上ワイマール憲法は死にました。
対して、繭川はあくまで憲法9条を改正しようとします。
もちろん、現代の日本において自衛隊法の方を憲法9条に違反する形で改正しておいて、「誰も文句を付けない」ことはまずないでしょうから、そこに理はあります。

しかし、ヒトラーが国民の人気を獲得するよう手を尽くし、国民投票を活用して権力を確保していったのに比べると、繭川は党大会での(それこそヒトラーを思わせる)熱狂的な演説シーンこそありますが、自衛隊を動かして強権的にことを動かし、「9条改正」というただ一つの目的に走るのみで、人心を掌握するのには失敗しています。
そう考えると、音矢のアイドル活動や『超防衛☆アーティクルナイン』のあんまりな出来といったギャグ調の場面も、広報戦略の失敗(あるいはそもそも戦略の不在)を物語っているように思われます。
だから繭川の政変は失敗し、「戦争」を起こすまでに追い詰められるのです。

「戦後日本」に対する戦いとして三島由紀夫の自決のことも語られますが、三島の自伝的作品のタイトルが『仮面の告白』であることも不安を誘います。普通は告白するのは素顔ですが、三島の場合は「仮面の告白」です。無論このことはただちに政治的主張のことには結び付きませんが、はたして三島には「戦後日本」に対する「否」はあっても、自らの実質的な主張はあったのでしょうか……

ここで、「限界小説研究会」の論者・蔓葉信博氏が論考「至道流星と情報戦」で、至道氏の『神と世界と絶望人間』を「覇道」の挫折の物語として論じていることが思い出されます(「世界革命の行方――いよいよ完結『羽月莉音の帝国』10巻」でも少し紹介しました)。『神と世界と絶望人間』の中では「愚民」が連呼され、大衆こそ敵だと言われますが、蔓葉氏は必ずしもそれをそのままには受け取りません。

(……)力が同等であるかぎり、ヴィジョンなき経済的革命活動はヴィジョンある活動に挫折せざるをえない。敵は、大衆ではなく、ヴィジョンなき己自身なのである。
 (蔓葉信博「至道流星と情報戦」『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』、南雲堂、2010、pp.279-280)


さらに、蔓葉氏が注目しているのがまさしく「情報戦」であり、続く『羽月莉音の帝国』において情報戦担当の春日恒太が(実は)物語の中心を担うことも、『君が衛生兵で歩兵が俺で』とは好対照をなします。

結局、繭川は自らの政治的ヴィジョンも、政治戦略も持たず、ただ「憲法改正」のみに向けて性急にひた走り、その結果として敗れたのではないでしょうか。
その原因はおそらく、彼女の戦う動機が元々、「戦死」を「事故死」として処理され、「軍人」たる名誉を奪われた部下のためというところにあるからでしょう。死した部下のため――美しい信条ですが、しかしそうしたセンチメンタリズムは、生きた者の政治を動かす理由として十分でしょうか。

他方で、イラクで「事故死」した繭川の部下の一人は大嶽の父親なのですが、それを今更のように知らされても、大嶽は繭川の信念ややり方に共感はしません。ただ――

 戦場では、国や立場より大事なものがある。
 ――それは、『目の前の戦友(とも)を思いやる』という、誰にも分かるルールだ。
 (『君が衛生兵で歩兵が俺で』、p.236)


繭川を守って怪我をした大嶽は、最後の「戦争」を前に退職を勧められますが、「戦友」たる音矢を守るため、退職を断って戦場に向かいます。

繭川は死せる戦友のため命を散らして戦い、大嶽は(そして最終的には音矢も)生ける戦友のために戦って、共に生きようとするのです。

結局、この政変と「戦争」を経て、自衛隊については何も変わりません。
大嶽はもしかすると爆弾となりうるものを受け取っていますが、彼が今後それをもって何かの政治活動に踏み込むかどうかは仄めかされてもいません。ただ、音矢との個人的な関係が進展を見せるのみで物語は終わります。
日陰者に徹することで国を守ることを選ぶ――描かれたのはそんな自衛隊の姿でした。
そして、政治的コミットメントをするなら、ヴィジョンを持ちうるか、将来の生を視野に入れて戦えるか――私が読み取った(開かれたままの)問いはそのようなものでした。



※ 『仮面ライダーBlack』の主題歌は主演の倉田てつをが歌っていたことを指しています。必ずしも、上手くはないけれど、特撮の名曲として名高いものです(ただし、歌詞の意味不明なことでも有名)。
「ゴルゴムの仕業に違いない!」はやはり『Black』の、調べればすぐに出てくるくらいに有名なネタです。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

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