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セクシュアリティとシリアスさの排除――『俺、ツインテールになります。』

発売からは一月近く経ちましたが、ライトノベル。ガガガ文庫の新人賞作品です。

俺、ツインテールになります。 (ガガガ文庫)俺、ツインテールになります。 (ガガガ文庫)
(2012/06/19)
水沢 夢

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まず念を押してタイトルを確認しておきましょう。ツインテールというのは左右で括った髪型のことですね。上記表紙の子がしている通りです。
もっとも、そんなことは本作を読み始めると最初のページでいきなり説明されています。「ツインテールが好きだ」で始まる主人公の一人称語りが延々とツインテールへの愛を語っています。

大まかなストーリーはと言うと……主人公・観束総二(みつか そうじ)は異世界からやって来た少女・トゥアールに見込まれて、異世界から侵略してくる怪人たちに対抗するためツインテールの幼女の姿をした戦士・テイルレッド(表紙絵)に変身して戦うことになる……というヒーロー物のようなもの。
しかし、総二が見込まれた理由、すなわち戦う力の源が彼のツインテール愛に基づく「属性力(エレメーラ)(もちろん、いわゆる「萌え属性」を念頭に置いたネーミングでしょう)であって、敵の目的も「属性力を奪う」ことで、攫ってきた女の子に、

「貴様はこの子猫のぬいぐるみを持つがいい! 敵意もまた愛らしさと光る……腕白な幼女には、子猫のぬいぐるみがよく似合う!! さあ、抱けい!!」
 (水沢夢『俺、ツインテールになります。』、小学館、2012、pp.47-48)


等とやっているのですから、全編に渡ってバカバカしい話です。

そしてヒロインの人格も強烈で、異世界からやって来た美少女・トゥアールは最初から実に胡散臭い態度で総二にテイルギア(変身アイテム)を装着させようと迫り、そもそも変身したテイルレッドの姿を幼女に設定したのも趣味だったり、不自然な仕方で総二に迫ったりと、とにかく変態です。
他方で総二の幼馴染である津辺愛香(つべ あいか)は武道をやっていて腕っ節の強い――そこだけ見るとオーソドックスな――ツンデレヒロインですが、ただ彼女の暴力は序盤を除くと、ほとんど総二ではなくトゥアールへのツッコミ(もしくは制圧)に向けられます。

「そーじっ!」
 駆け寄ってきた愛香に抱き留められ、安心したのか、俺の意識は明滅していった。
「地面に頭を押し付けるなんて可哀相です、ここはきちんとクッションになる私の胸に」
「地面じゃなくあたしの胸よ!!」
「――胸というのは女性の場合起伏があって初めてそう呼びます。つまり愛香さんの首の下にあるのは、地面です」
「地面とキスでもしてろボケエエエエエエエエエエエエ!!」
 トゥアールは後頭部をバスケットボールのように鷲摑みにされ、地面に押し付けられる。
 (同書、p.84)


トゥアールも何かと罪がありすぎる一方で愛香のツッコミもほとんど殺人技になっていたりしますが、不快なものにもなりかねない両者の人格を上手く潰し合わせている感じでしょうか。
ヒロイン同士が潰し合うばかりで主人公に被害が行かないのは『僕は友達が少ない』にも見られた事態ですが、あの手この手で夜空と星奈が勝負を繰り広げた『僕は友達が少ない』に比べると、本作の暴力的ツッコミ漫才は単調で、また見事なほどに「仲が良いな」とは感じさせません。

そしてまた、そんな風に変態的な人格を見せているせいか、最初は美少女なことで総二の目を引いたトゥアールも、急激に性的な視線の対象から外れていきます。

 俺の位置からだと二人のパンツがまる見えなんだが、何でだ、何でこうもことごとく色気を感じないんだ、この二人には。
 (同書、p.109)


このことはテイルレッドに変身することで幼女になる、つまり性転換した総二が自分の身体に性の問題を感じないことと相まって、本作全体からセクシュアリティを排除しています。
テイルレッドのことは(敵の侵略よりも話題を呼ぶほどに)人気になり、その姿があちこちで報道されたり学校の教室にまでファンが続出していたりするのを見て、内心「やめてくれ」と悶絶していたりはしますが、しかしこのテイルレッドの扱いはそれこそ「萌え」と呼ぶのが相応しいもので、――「萌え」が性的なものを含むことはあるにしても――直接的な関わり合いへの欲望からは遠い、ファンの視線です。

そしてシリアスな態度で出てくる敵も(それどころか、主人公視点ではない敵本部の会議も)、敵に属性力を奪われ滅ぼされた世界の話も何もかもこのノリなわけで、しかも主人公が素でツインテールへの愛を延々語るような人物なので、日常と戦闘時とのギャップはほぼありません。
今回はこれ以上考える余裕もないのですが、このようなセクシュアリティとシリアスさの排除は全てを笑いに吸収するための体系立ったものであると思われる、とのみ述べておきます。

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先日、今月はガガガ文庫の新人作品が3タイトル揃って2巻発売、と言いましたが、そのうちの1つ、『俺、ツインテールになります。』を取り上げます(1巻の発売は『下ネタ~』より1ヶ月
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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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