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芸能界の事情――『大日本サムライガール』

さて改めてライトノベル『大日本サムライガール』のお話となります。

大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)
(2012/07/13)
至道 流星、まごまご 他

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主人公・織葉颯斗(おりば はやと)は日本最大の総合広告代理店・蒼通に勤める入社5五年目。入社して初めての部下である健常由佳里(けんじょう ゆかり)と一緒に営業に出ていたところで、街頭で拡声器を持って演説している美少女を見かけます。

真正なる右翼は、日本に私ただ一人である。


彼女の名前は神楽日毬(かぐら ひまり)日本の独裁者となりこの国を救うという目標を掲げて、日本大志会という政治結社も届出の上で結成している彼女ですが、無論こうして該当で演説していたところで何かできるはずもなし。
政治家をやるにしても、まずはメディアに露出して人に知ってもらわねば話にならない、ということで、颯斗はちょうど抱えていた案件(しかしモデル未定)であった防衛庁のPVビデオを手始めに、彼女をアイドル活動に誘います。「オヤジを見返してやる」という颯斗自身の動機もあって、彼も蒼通を退社してプロダクションを立ち上げることに。

ところでこの作品、出版社もかなり力を入れているようで、作中に登場する以下のサイトまで現実に作られています…

 日本大志会 (作中で語られる日毬の演説あり)
 ひまりのお部屋

「第一に、アメリカとは適度な距離を置くことだ。いつまでもアメリカの庇護下におかれていていいわけがない。牙を抜かれたまま、いいように振り回されるだけだ。現状のままではアメリカと共に沈んでしまうだろう。今こそ日本はアメリカの支配から脱脂、独自のポジションを打ち立てるべきだ。我が国にはその力がある。貴公はそう思わないか?」
「右翼ならアメリカ支持だと思ったが……」
 俺の言葉に、日毬は鼻を鳴らす。
「ふん、ずいぶん短絡的だな。そんなヤツらは偽物だ。大方、アメリカからお金でも貢いでもらっているのだろう。真の右翼は、日本に私ただ一人である」
 (至道流星『大日本サムライガール』、講談社、2012、pp.29-30)


まあそれだけで出来合いの「右翼」の枠組みを突き抜ける勢いはありますが……颯斗達もこれには唖然とします。

そして、この「~だ」という力強い男言葉のヒロインも至道氏の作品では今まで見なかったタイプで、しかもデートでも天下国家を論じ御所を詣でることをまず考えていたりと、思考が一から十までかなりズレています。
神楽家は1000年近い歴史を持つ武士の家で、今も剣道の道場を経営しており、今でも子供は16歳で大人と見なすという古風な家風が、強烈な国粋主義者でありまた「サムライ」気質の彼女の性格を養成したようですが……
しかし他方で、彼女の政治への意志の背景には、――『雷撃☆SSガール』の凛や『羽月莉音の帝国』の莉音と同様――小学校時代からボランティア活動に関わっていて、施設に引き取られる子供たちの悲惨な実態を見てきたという弱者へのまなざしがあります。

(……)大半は親の虐待によって施設が引き取った子供たちだ。たぶん虐待は、国が把握しているよりも遥かに多いに違いない。施設まで送られてくる子たちは、よほど酷い状況に陥っていたからだ」
(……)
(……)児童虐待は急激な勢いで増加しているんだ。私も、ボランティア団体の人たちも、びっくりするくらいの勢いだ」
「どうしようもない親たちが増えてるってことか? 世も末だな」
「普通なら、そう決めつめたくなるところだろう。だが事はそんな単純な話でもないんだ。東京都が、児童虐待の実態について調査したデータによると、どのようなタイプの過程においても、親の経済的困窮から虐待に走るケースが大半を占めていたんだ。大半の親は、いわゆるワーキングプアだ」
 (同書、p.174)


しかし彼女は、弱者が立ち上がるという革命モデルも支持しません。そこにサムライとしての心構えが繋がってきます。

「今こそ維新の時なんだ。かつての明治維新は、高い倫理観を持つサムライたちの切腹だった。武士たちは日本の未来を形作るために、自分たちの既得権益を自分で吹き飛ばしてしまった。だが今の既得権益層に、同じような倫理観が期待できるだろうか? いや、できまい。ならばこそ、武士の血を引く者として、私がやらなくてはならないのだ。国家に強権を集中し、根底から制度を変える。未来に永続する日本を創り上げるために。だから私は強い国家を志向するのだ」
 (同書、p.178)


もちろんここでは、明治維新が武士の行ったものでありながら、維新によって武士の特権が廃止されたことが言われています。

しかし志は立派であるとしても、彼女は普通よりも世間からズレた高校生で、この1巻の間もまずは颯斗に導かれて芸能界やメディアについて勉強するところから始まります。政治のことは人より勉強しているとしても、このどこまで具体的なことを考えることができているか……颯斗も能力はあったとしても一介のサラリーマンでしたし、どう政治に挑むかはまだまだこれからの問題でしょう。
そもそも作者も、本作には「極右から極左まで」様々な思想信条が登場すると宣言していますが、1巻ではまだ政治的立場の対決は前に出ておらずアイドルプロデュースがストーリーのメインなので、おそらく対立する思想が出てきてからが本番、ということでしょう。

そんな日毬も本音ではかなり気弱なところがあって、颯斗を信頼してついて来ているという構図で、天才設定のキャラクターがビジネスと物語を引っ張っていた今までの至道氏の作品とはだいぶ状況が違います。
さしあたってのアイドルプロデュースの武器は日毬の容姿とスタイルということになりますが、そればかりでは上手く行かないことも強調されるところ。

 タレントが売れるために一番重要なものは、「パワーのある芸能プロダクションが、本気でそのタレントを売り出そうと思うこと」だろう。これがすべてと言っても過言ではないほど圧倒的なことだ。これさえあれば、女の子の美貌の良し悪しにかかわらず手堅く売れる。
 (同書、p.138)


これまた、各章末に「部費」が記載されて凄まじい経済規模のインフレを楽しませてくれた『羽月莉音の帝国』とは対照的に、まずは採算以前に、何とか顔を出して実績を作ること、そのための営業活動、という地道なところから始まります。

そして芸能界と言えばヤクザ関係ですが……その辺の繋がりも――そもそもラジオやテレビの普及以前には芸能界はヤクザが担っていたことも含め――解説されます。組の代紋を付けた連中と武力は対決したりはしませんが、そうした事情は匂わされ、さらに――たとえ理不尽な事情であれ――業界で力のあるプロダクションを敵に回すと嫌がらせを受けてやっていけない、といったヤクザな体質がきっちり描かれます。
このことを巡る対決が1巻の山場となりますが、こればかりは新興のプロダクションが対抗策を探してもそうそう何とかなることではなく、何とも生々しい緊張感があります。
『好敵手オンリーワン』の1巻はライバル店との対決がクライマックスでしたが、飲食店ならばたとえ相手が大手チェーン店でも個々の店舗としては対等に近い条件での勝負もあり得るでしょう。そして見事勝利して決めましたが、さて今回は……

批判も多くても自らを印象付けた方がいい――『帝国』の恒太で見たような――といった話も含め、やはり「情報戦」というテーマが続いているわけでして、1巻のラストは確かに日毬が見事に決め、ある種人心を摑んだだろうと思わせるものがありましたし、物語としてのカタルシスも十分でしたが、さてこれで「勝利」したのかどうかはまだ確証は持てません。
すぐ釈放されるとは思われるものの、日毬が逮捕されて終わっていますし……

今日はひとまずこの辺で(もう少し続ける予定です)。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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