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政治と経済の間で――続・『大日本サムライガール』

さて昨日からもう少しライトノベル『大日本サムライガール』の話が続きます。

文字通りに異世界からやって来たようなズレ認識を持つ日毬の独特の言動が本作の楽しみどころの一つです。このように古風であったり男言葉であったりするヒロインはライトノベル的キャラ造型にはままあるものの、なかなか独自の味を出しているのは間違いないでしょう。
そして二番手ヒロインに当たるのが主人公の後輩社員である健城由佳里です。初っ端からまだ出演者の決まっていない防衛庁のPVビデオに出たがりつつ、「でもちょっとだけ、出てあげてもいいかなって思いますね。必死に頼まれればですけど!」(p.9)等と言っていたり、颯斗が独立してプロダクションを立ち上げた時には、

「私がどんどんスカウトして所属させていきますから。……あ! ていうか! まずは私が所属しますから! 昼の顔は蒼通勤務、でも実態はスーパーモデル兼女優ってことでそうです? 蒼通の営業で、自分をCMに売り込んじゃったり」
「うっせ。一人で勝手にやってろ」
 提出書類を次々にめくっていった由佳里は、ふと声を上げる。
「私が役員に入ってなーい! 日毬ちゃんもないですよ!」
 (至道流星『大日本サムライガール』、講談社、2012、p.112)


といった具合で明るいお調子者といった感じです。
実家が寿司屋の下町育ちというのも、武士の家系である日毬との対比でしょうか(侍と寿司屋というと『侍戦隊シンケンジャー』を思い出しますが……)。
颯斗の仕事を引き継いで蒼通に勤務し続けているので、これからも味方として出番はあるでしょう。
恋愛関係では颯斗に行為を寄せている描写はあるものの(しかし颯斗が鈍いのは定番)、日毬と颯斗の関係が鉄板なのであまり見込みはないかも知れませんが…

『羽月莉音の帝国』は主要メンバーの人数まで『涼宮ハルヒ』の憂鬱と重なっていましたし、ハルヒと同系統の勝気な女王様系ヒロインは今まで至道の多くの作品に共通していたことですが、しかし氏がキャラの魅せ方について独自の理念を持ち、政治的武器としてのキャラの物語を計画的に描いて見せたことも私はすでに指摘しました。
今回は路線を変えて、上手くキャラを立ててきているかと思います。

が、問題は主人公の颯斗です。
織葉家は日本一の印刷業者・東王印刷の創業者一族で、今でも筆頭株主の富豪。東王印刷の会長である颯斗の父親は経団連の会長まで務めた人物です。
常に正論を吐き、子供達が幼い時から仕事の心得と帝王学を教え込んできた厳格な父親に対する反発が颯斗にはあります。しかも自分があまり期待されておらず、実は跡継ぎも弟の悠斗に決まっているとあれば、なおさら。
颯斗が父親に試され、悠斗との差を露わにすることなったエピソードというのが「小学校時代、お年玉に白紙の小切手を貰って、悠斗は1000万円と書いたが自分は3.980円(ちょうど欲しかったゲームの値段)と書いた」とか、「1000万円を渡されて3ヶ月で運用して増やすよう言われ、悠斗は1370万円にしたのに対して自分は2億円の損を出した」とかいうある種凄まじいものです。
しかしそれを聞いて由佳里……

「話を聞いてると、それ、実力の有る無しじゃなくて、個性の問題に過ぎないと思いますね。本当に。なんか、先輩の方が個性が尖ってて、本当は弟さんより、ずっと秘めた実力を持っているのかもしれませんよ? そんな気がしてきました」
 (同書、p.74)


確かに、欲しがるお金の金額は必ずしも実力の証ではありません。私欲に関しては差し当たりゲームを買うだけで十分、他方で無茶な大勝負ができる、というのも一つの長所であり人間的スケールの大きさである可能性はあります。
しかし、それがいかなる場面で発揮されるかが問題です。
考えようになっては、金融取引で大損しても、経営者ならまだいいのです。至道氏自身も『羽月莉音の帝国』のバブルに関する話で書いていたように、いくら損しても倒産・破産すればそれまでで、それ以上には失いませんから。
それに対して政治においては、無闇に「国が潰れるかどうかの大勝負」になど出られては困ります。何としてでも国を生かすことが第一です。

1巻の限りでは、颯斗は蒼通勤務の経験からある程度はメディアのことを知っているビジネスパーソンとして、日毬にこの世界のことを教えつつ、堅実に実績作りを進めようとしていますが、日毬の特異さゆえに“図らずも”「政治系アイドル」として売り出すという一か八かの大勝負を打つことになってしまっています(会社をやめてプロダクションを立ち上げること自体が大きな冒険かも知れませんが…)。
そして1巻ラストの大手プロダクションとの対決(?)では、日毬が主導で勝負し、その器を人々に見せ付けることになりました。
その器が政治に当たってどう作用するかはこれから見ることになるでしょうが、ただ、日毬の極度に実直な性格は政治的な「腹芸」には向いていないのではないか、とも思われます。

これは「結局二人とも政治には不向きである」といった結論を早計にも出そうという話ではありません。政治に求められる能力も多面的です。
ただ、1巻のところは大勝負を打つ日毬と堅実な颯斗が支え合って進んでいる様子なので、颯斗のさらなるポテンシャルが発揮される時があるならば、それは大幅に異なる状況に対してであって、また別の形で日毬(や、またその他のキャラ達)と相補的に支え合うことになるのではないかだろう、と思われるのです。が、そrがどのような状況かは、まだおよそ予想がつきません。


そしてもう一つ、ひたすら経済活動で力を蓄え、最後に革命を起こす……という『羽月莉音の帝国』のストーリーと異なり、本作は最初からヒロインが政治的主張を掲げていて、これからは主張の対立も数多く繰り広げられそうです。
また『帝国』のような世界革命という巨大構想ではなく、自称「真正なる右翼」たる日毬の目標はあくまで「日本」の再生です。目標が日本の国政で、差し当たっての敵が大手芸能プロダクションの圧力というのも「世界」云々に比べれば現実的に感じられる話で、それなりに現実的な緊張感も並ならぬものがあります。
こうした構成はいかなる自体に繋がるでしょうか。

(……)元来、経済活動と政治活動は相容れないシロモノだ。あらゆる経済活動は、すべての消費者から愛される商品を作ることが最終目標にある。反面、政治活動は対立する組織に打ち勝ち、政権を奪取することが目標だ。政治は常に、暴力的な姿勢を内在している。企業の立場になってみれば、よほど政治的利権を有している企業以外は、可能な限り政治から遠ざかっていたいと考えるのは当然の姿勢なんだ。そしてメディアも芸能人も、企業がお金を出して成り立つものと言っていい」
 (同書、pp.246-247)


これだけ読むと「すべての消費者から愛される」ことを目指す企業は平和的・友好的で、政治は暴力的であるかのように見えますが、もちろん企業にも企業間の競争はあります。ここで言われているのはあくまで、企業が政治的党派性を持つと異なる政治的立場の人間に商品を売るのに不利になるので企業はそれを望まない(それゆえ、党派性の強い人間を広告に使うこともない)、という話に過ぎません。
しかし、そこからさらに考えてみれば、政治とはまずもって「特定の共同体と、つまり味方を守る」ことであるのに対し、経済は異なる共同体との交易を目指します。両者の緊張関係は、それぞれのかなり根源的な本質に由来してはいないでしょうか。

グローバル経済等と言われて、ますます「異なる共同体との交易」が進む当今、いっそう経済の力は強まり、どこにでも市場原理を取り込むといったことが当然のように言われます。しかし、この世には市場に馴染まないものも当然あります。
今までビジネス・経済ネタを売りにしてきた至道氏が、今回もアイドルプロデュースという経済活動での売り出しをメインにしたストーリーにおいて国粋主義者のヒロインを立てる意味は、このような緊張関係に挑むこと以外にはないでしょう。
実際、「右翼」としての立場を前面に出していく日毬の前には多くの苦難が予想されます。しかし、それが楽しみなところです。

 (おまけ)
極端に「非戦」を主張する「タレント経済評論家」が作中に登場しますが……

「もし外国が攻めてきたらどうするんですか?」
「われわれは非戦を守り通せばいいんですよ。最後の最後まで非戦を貫いて、平和に準じればいいんです。過去にそういう美しい民族がいたと知ってもらえれば十分じゃないですか。国防なんてね、経済活動を阻害するだけです。カッコ悪いものなんですよ」
 (同書、p.302)


どう見ても森永卓郎氏なんですが……しかしあとがきでも強調されているように、実在の「国家、人物、人種、企業、政党、宗教、組織」とは一切関係ないということになっていますので。
別にどちらかを推奨しているわけでもありませんし。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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