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こんな言葉

相変わらず冒頭から下ネタで恐縮ですが、まずはこの会話を。

「あなたの名前の素晴らしさを説明するにはまず、日本における金玉について論じなければならないわ」
「なんでだ!」
「世界に“睾丸”を意味する単語は数あれど、日本のように黄金だの宝石だのと煌びやかな単語を組み合わせた例は他にないわ。日本人は金玉に、特別な想いを抱いているの。そして狸というのは金玉を肥大化させた日本固有の妖精で、世界でも他に類をみない独特の卑猥カラクターなのよ! 性に対して素朴なユーモアと寛容さを持ち合わせていた日本の古き良き精神文化が、あなたの名前には込められているわ! 胸を張っていいのよ?」
「張れるかあ!」
 (赤城大空『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』、小学館、2012、pp.64-65)


「狸吉(たぬきち)」なんて近年稀に見るダサい名前と思いきや、そんなところまで下ネタ……いや少なからぬ読者が気付くことではあるでしょうが、作中堂々と公言している辺りが何とも。
(引用されているライトノベルについては「(無)知は性に勝利したか――『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』」の記事を参照)

続いて、もう一つの引用文をどうぞ。

 金玉と書いて、きんたまと読む。男の睾丸をさす言葉である。あるいは、陰嚢までふくめて、そう呼ぶこともある。
 同じところをしめす言葉は、もちろん世界中にある。あらゆる民族が、睾丸や陰嚢をあらわす言葉をもっている。
 しかし、あそこを金と言い、玉と呼ぶ民族が、ほかにあるだろうか。黄金でありかつ宝石でもあるという。それだけかがやかしい名前を、われわれはあそこにあたえている。日本語以外に、こういう特等席を用意した言語は、見あたらないだろう。
 (……)
 金玉については、あとひとつ語りたいことがある。それは、狸とのかかわりである。
 ある世代以上の日本人は、みな「たんたん狸の金玉」という替歌を、うたえる。地方によって歌詞にばらつきはある。しかし、狸の大きな金玉がゆれている様をえがいている点は、かわらない。どの地方も、同じである。
 信楽焼の狸像も、金玉をふくらませて、つくられる。居酒屋の店先などでは、すっかりおなじみになっている。われわれは、金玉という言葉から、すぐ狸を思い浮かべることができる。あるいは、狸から金玉を脳裏へよぎらせることも。
 そして、こんな民族も、ほかにない。日本だけである。
 そもそも、金玉のあれだけ肥大化した妖精じたいが、ほかの民族にないだろう。生殖器崇拝で、巨大な男根をかたどる例は、世界にたくさんある。しかし、金玉のふくらんだ想像上の動物をマスコット化させたのは、日本だけだと思う。
 (井上章一・斎藤光・澁谷知美・三橋順子編『性的なことば』、井上章一「金玉についてのささやかな考察と、あとがき」、講談社現代新書、2010、pp.422-424)


むろん、同じ問題を複数の人間が考えることはあります。しかし、「黄金」と「宝石」、そして「妖精」といった語の一致が両者の関係を強く示唆します。
そもそも、「玉」といってボール(ball)を考えてしまうと、「形状からそう言うんだろう」と思って終わりです。宝石を意味する「玉(ぎょく)」の方に気付かない人も結構いるのではないかと。

さらに決定的なのは「妖精」です。
まあ妖怪の狸を「妖精」といっていけない、というほどの理由は多分ありません(「妖精」と訳されるヨーロッパ各言語の間の違いもあります)。他方で怪物(モンスター)等と言ってしまうと広くなりすぎる感もありますし。
しかし、狸のような幻獣と妖精との間にはやはり開きがあるようにも思われます。

別に私はこの引用を糾弾しているわけではありません。
まったくの文面の盗用というわけでもなし、知として書かれたものは使っても良いでしょう(もっとも、巻末に「参考文献」が載っていればもっと面白い――もとい良かったのかも知れませんが)。

ちなみにこの『性的なことば』は『性の用語集』の続編に当たるもので、辞書においてもなかなか陽の当たらない性に関する用語の成立を歴史的に検討した名著です。
さすがは『パンツが見える。』で歴史家としての手腕を発揮した井上氏。そしてその他の著者も。


ところで、狸に関してはなおも考えを進める余地があります。『股間若衆』において指摘された公共彫刻の性器問題に、信楽焼の狸は問題にならないことを考え合わせると、どうやら陰茎ではなく陰嚢は、もっと言うと「膨らんでいるだけのもの」はセーフらしい、と。


性の用語集 (講談社現代新書)性の用語集 (講談社現代新書)
(2004/12/18)
井上 章一、関西性欲研究会 他

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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