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パンツと大英帝国の没落

相も変わらずしょうもない話ですが、私が小学生の頃、教育テレビの『ポンキッキーズ』でデーモン小暮閣下が英語を講じていて、「英語ではパンツを見られてもみっとも恥ずかしくない。英語ではこうやって〔両脚を別々にズボンに通すジェスチャー〕穿くものはみんな“パンツ”だ」と言っていたのを覚えています。近年になって日本のカタカナ語でも「パンツ」がズボンを指すようになってきました。
しかしこれ、実はイギリスとアメリカで事情が違うのでした。

 言うまでもないが、パンツは外来語である。語源となったイギリスの英語では、もっぱら下着だけをさしている。これは、今もかわらない。日本のパンツも、まずこのイギリス英語からはじまった。ながらく下着だけをさす時代がつづいたのも、そのためである。
 パンツが外衣をさすのは、アメリカの英語、つまり米語である。そして、米語のパンツに、下着という意味はない。下着の場合は、ブリーフ、パンティス(女)、ショーツ(男)などとなる。ちなみに、イギリス英語だと、ズボン上の外衣は、トラウザーズかスラックスあたりか。
 (……)
 日本で、パンツが外衣をふくみだしたのは、アメリカ風にしたがったせいである。おそらく、ジーンズの不朽が、こういう米語のうけいれをあとおししたのだろう。ジーンズ・パンツ=ジーパンから、ひろまっていったのだと思う。あるいは、綿パン、トレパンあたりからも。
 大英帝国がおとろえ、アメリカの帝国主義が世界を席巻する。そんな御時勢を、パンツの意味がかわりだしたことも、なにほどかは反映していよう。英米という語順が、米英にかえられだす。そんなながれも、パンツには影をおとしているというべきか。
 しかし、イギリス流のパンツは、アメリカ風のパンツがはいってからも、たもたれた。パンツ=上着が、パンツ=下着を駆逐するまでには、いたらなかったのである。
 (井上章一・斎藤光・澁谷知美・三橋順子編『性的なことば』、井上章一「パンツ」、講談社現代新書、2010、pp.166-167)


こんなところにも世界情勢の変化あり。

ただ、どういうわけか日本語では「ショーツ」は婦人下着を差します。
この言葉を一番使っているのは女性下着メーカーではないでしょうか。
しかし英語の原義は井上氏も説明する通り。『ランダムハウス英語大辞典』short の名詞の項を見ても、

5 《~s》(1) ショートパンツ: 小児用および成人のスポーツ・レジャー用半ズボン。(2) 《米》男子用の下着のパンツ(《英》pants)。


元々男性用を指していたものがなぜ日本では女性用を指すことになったのか、井上氏には是非、今度は、この点の検討をも期待したいところです。

そして、ここから少しライトノベルの事例を。

「これですか? まあ見ていてください」
 そう言って、ニャルラトホテプはそのカプセルを大きく振りかぶった。そうして正面から見ればパンツが露わなくらい片足を高々と掲げ、
「シャンタッ君、君に決めた!」
 カプセルを地面に叩き付けた。(……)
 (逢空万太『這いよれ!ニャル子さん』、ソフトバンククリエイティブ、2009、pp.138-140)


「さてと……ノフル=カー! 君に決めた!」
 例によってニャルラトホテプが下着を真尋に見せつけるように足を頭より高く掲げ、カプセルを振りかぶった。その瞬間、ものすごい勢いでクトゥグアが地に伏せて、ニャルラトホテプの下着に向けて携帯電話のカメラのシャッターを切っていた。もう駄目だこいつ。
 (逢空万太『這いよれ!ニャル子さん8』、ソフトバンククリエイティブ、2011、pp.190-191)


 ニャルラトホテプはわざわざスカートを上げてから、地面に座している真尋にショーツが見えるようなポジショニングで前傾姿勢になって、景品取り出し口に手を突っ込んだ。今日は珍しく白だった。というか、来星以来初めてではなかろうか。
 (逢空万太『這いよれ!ニャル子さん9』、ソフトバンククリエイティブ、2012、p.61)


1巻ではまだ「パンツ」という表記が見られましたが、近刊では「下着」とか「ショーツ」という表記が目立ちます。特に1番目と2番目は同じく(ポケモンネタで)カプセルを投げるシーンなので非常に分かりやすいですね。
やはりオタク文化においてはエロスを感じさせる表現は「パンツ」なのはおそらく変わっていないのであって、それを避けてエロティックな含意を消すように、ますます即物的な文体を進化させているようです。
結局、美少女の姿をしていても中身は不定形の宇宙生物なのだから……と言わんばかりに。

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

これはいつも非情に頭を悩ませる問題ですね。
女子の間ではもう「パンツ」は、ジーンズ以外のズボンをさすことが定着していますが、ちょっと年齢層が高かったり、男性の場合、やはり下着のほうを想像させてしまう事が多いかもしれません。
ですから小説上では仕方なくカーゴパンツとか細かく表記したり。それも、ちょっと嫌ですね。

少年、青年の使い分けの次に、面倒くさい表現です。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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