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ハーレムは正当化できるか?――『閃弾の天魔穹』

今回もライトノベルです。
早矢塚かつや氏の作品は『これからの正義の話をしよっ☆』以来ほぼ一年ぶりでしょうか。

閃弾の天魔穹 (一迅社文庫)閃弾の天魔穹 (一迅社文庫)
(2012/07/20)
早矢塚 かつや

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同作者の作品としては初の異世界ファンタジーになるようで、世界観に関してはなかなか複雑な設定もありますが、しかしオリジナルの異世界を舞台にするには設定をある程度きちんと作って説明するのは当然のことでもあって、大枠としては普通のファンタジーという印象も禁じ得ません。
しかしそういうだけではつまらないので、もう少し細かく検討していきましょう。

作中世界において、人間は精霊の力を借りて魔法文明を築いているのですが、九天魔星(ナヴァグラハ)という妖星(?)が出現してからその光によって精霊が妖霊化し、また多くの精霊が人間の元を去ったという設定。
妖霊は矢精霊(サジッタ)の力をもつ矢でしか倒せないという設定があり、そのため、妖霊と戦う闘士は前衛の剣士と後衛の弓使いでコンビを組むという設定で、「剣と魔法」の「魔法」の部分が矢になっているシステムは一つの特色ではありますが、これだけではまだ売りとするには弱いでしょう。

九天魔星の光を遮るために精霊たちが雲で空を覆っていて青空の見えることのない世界、天に届く塔、さらには妖霊を出現させ、落ちればその土地を完全に「消し去る」いわば「魔王」に当たる存在である九天魔星が天から落ちてくる星という非人格的なイメージで描かれるなど、印象的なイメージも少なくありませんが、イラストが人物――特に美少女――に偏るライトノベルにおいてはそうしたイメージは評価対象になりにくいでしょう。
そもそも、叙景文の不遇は「現代文」の教科書にすら言えることですが……ビジュアルイメージの補完をイラストに頼るライトノベルではいっそうそれがはっきりしていて、仮にスタンダールの『赤と黒』の冒頭にあるような美しい風景描写を書いてもそれに相応しいイラストが付く可能性は限りなく低いですし、文章としても評価にどれだけ影響するかは微妙なものです。

ポイントは、この闘士を派遣するのが希少な精霊を管理している魔法協会であって、そのことにより魔法協会を管理する王家が支配体制を築いている、ということです。
主人公アルク=アルジャン妹ルジーナは12歳にしてイウリオス国王に嫁がされており、王家による支配体制を覆して妹を取り戻すことこそがアルクの目的です。
このような設定の場合、魔法協会による支配体制がいかに強固であり、その上でいかにすればそれを覆せるのか、というところをどう描けるかがポイントになります。「世界を変える」と言うは易しですが、説得力を持たせるにはまず「世界」設定とその描写の強固さが問われます。

 ―――

たとえば『ハリー・ポッター』シリーズの場合、シリーズ第4弾『炎のゴブレット』の終盤でラスボスのヴォルデモートが復活した後、続く『不死鳥の騎士団』の大部分ではヴォルデモート軍との戦い……ではなく、ヴォルデモート復活というスキャンダルを隠蔽しようとする魔法省、特にその手先としてホグワーツに赴任してきたアンブリッジ先生との戦いが繰り広げられました。
ここには当世きっての魔法使いであるホグワーツ校長・ダンブルドアに抗してホグワーツへの支配権を強めたいという魔法省の政治的意図も絡んでいます。
アンブリッジ先生は役に立つことは何も教えず、あくどく、陰険で、それだけに生徒たちが悪戯のスキルを駆使して彼女に嫌がらせを決めた時には爽快です(今思うと、学校を主な舞台に一般生徒たちとも協力関係を築きつつ、知の隠蔽という抑圧と戦うという点において、『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』もこれに通じるものがあったかも知れません)。
とにかく、このようなサディスティックなまでにあくどく、えげつない描写の数々が、実は『ハリー・ポッター』の世界観と人物に厚みを与えています。

SFやファンタジーの世界観でミステリをやるのは大変で、現実には不可能な事態が生じる設定を説明した上で、「そんなことも出来たなんて聞いてないぞ」というアンフェアの感を与えずに謎解きをするのは、まことに困難です。
『ハリー・ポッター』はその分野で十分に成功した作品と言って良いと思われますが(単に商業的な意味でなく)、その成功も上記のねちっこい描写なしにはあり得なかったでしょう(とりわけそれが結実するポイントは、やはりスネイプ先生にあり)。

 ―――

さて『閃弾の天魔穹』に戻ると、ボリュームを考えても当然、描写の量は『ハリー・ポッター』とは比較になりません。魔法協会がいかに力を持っているかは一通り説明されていますが、「一通り」の域を出ない感もあります。
その理由はやはり、「王が臣下の娘を妻/妾に要求する」という、この手の世界観ならありそうな事態以外に具体例が描かれていないからでしょう。

さらに、世界にはただ12本、九天魔星を落とせる弓・天魔穹が存在しており、主人公はその一つ・人馬穹(サジタリウス)の矢精霊・スザクと出会って、九天魔星を落とす旅に出ることになります(ちょうど『仮面ライダーフォーゼ』と同じく星座ネタですが……)。
このように世界の命運を左右するほどの強大な力を個人が手にできるとあれば、それだけで、世界を変えることもできて不思議はない気がしてきます。しかし、支配体制の実態が描かれる前に、(具体的な方法は見えずとも)それを変えることが「できそうだ」と思わせてしまうと、インパクトは弱くなります。

ここまで、どうにも決定的に悪くはないが平凡、という話でした。
では本作ならではのイメージは見出せるでしょうか。
それはおそらく、実はそれこそ定番のネタであるハーレムと修羅場の内にあります。

まず、主人公アルクのパートナーとなる矢精霊スザクは美少女で、しかも矢精霊と闘弓士がパートナーになることを作中用語では「ツガイになる」と言います。
他方で、前衛の剣士としてアルクと組むのは、ウィンビーク闘士養成学院(ギュムナシオン)の同級生である美少女・サーシャです。
サーシャの素性についても中盤で結構大きなことが明らかになりますが、とにかく色々あって、この1巻で早速、二人が共にアルクに結婚を迫り、どちらが正婦人かで争うところまで事態は発展してしまいます。
さらに、アルクの実家にいた従者でウィンビーク闘士養成学院にも同級生として入学してきているメイド(この言葉は作中では使われませんが)のクレットの存在があります。
彼女もはっきりと愛人に立候補していて、サーシャにアルクとの「さんぴぃぷれい」(p.206)を持ちかけるほどの剛の者です。

(……)誠に遺憾ながら、私一人からのアプローチではアルクさまに逃げられてしまいます。私とサーシャさまでアルクさまのモノをこう、両側から挟めば、さしものアルク=アルジャンも陥落するでしょう」
「モノを、こうって……」
「こんなかんじです」
「手でやってみせなくてもいい!」
 胸の前でなにかを挟むように弾ませるクレットの手を、サーシャは掴んで止めた。
「もしも初めてが怖いのでしたら、後ろからが痛みも少ないそうですよ?」
 (早矢塚かつや『閃弾の天魔穹』、一迅社、2012、p.202)


余談ながら、ファンタジー物のライトノベルで主要メンバーの一人に入るメイドと言うと、志村一矢『竜と勇者と可愛げのない私』トモエを思い出します。彼女は実はゴーレムなので現当主のおしめを変えたこともある(いわば「婆や」に近い立場)であると同時に滅法強くもあります。
クレットは戦闘要員としてパーティに加わるわけでこそありませんが、とかく、こうした主をからかったり、主も頭が上がらなかったりするメイドのキャラを最近結構見ている気がします。これこそが賃金労働者として仕えるのみで人間的には服属しない家政婦のあり方なのかも知れません。

閑話休題。
とにかく、アルクは二人の妻と一人の愛人を持つことになってしまっており、さらに天魔穹との同調の反動で戦闘後には異常な性欲を発動し、女の子たちを押し倒したり口説いたりするという体質が事態をややこしくします。
しかしそれによって彼は、「二十九人の妾妃」――そのうちの一人はアルクの妹ルジーナ――を持つという当代イウリオス王に図らずも近付いてはいないでしょうか。

鬼神を力で倒すために自らも鬼神とならねばならないのなら話は分かりますが、好色な王を打倒するために自らも好色な王にならねばならないとは、たしかにに予想外の話です。

故郷を守る力を得るべく、九天魔星の「力を手に入れ」ようとしているライバルの天魔穹使い・イーディオに対して、アルクはあくまでも九天魔星を「落とす」自分の立場をはっきりと掲げます。
そして彼はいずれ、「ハーレムを築くこと」についても同様に自分と相手の立場の違いをはっきりさせねばならないかも知れないのです。


竜と勇者と可愛げのない私 (電撃文庫)竜と勇者と可愛げのない私 (電撃文庫)
(2010/02/10)
志村 一矢

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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