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続・『謎の彼女X』

前回に引き続き漫画『謎の彼女X』の話となります。

言い忘れていましたが、本作のヒロイン・卜部美琴には、普段は前髪で目が隠れているという特徴もあって、明が彼女を好きになったのも前髪を除けた素顔が予想外に可愛かったことがきっかけです。
類似の設定は覚えがないのではなかったものの(『魔法先生ネギま!』の宮崎のどか等)、実は前髪っ娘というカテゴリー名もあるらしいと少し以前に知りました。まったく人の分類し命名する力は侮れません。

そして、彼女は恋愛関係の他にも、パンツにハサミを挟んでいてそれを巧みに操るという「必殺技」があるのですが、その奇行を突っ込まれた時の発言がこれ。

謎の彼女X5
 (植芝理一『謎の彼女X』、講談社、2006、p.59)

社会的な場面でこれを言われたら困ります。仕事で改善すべき点を伝えてこう返されたら怒るでしょう。
しかし、これも「恋愛対象」についての託宣です。

植芝氏の前々作にしてデビュー作『ディスコミュニケーション』も、キャッチフレーズは「ワカラナイカラスキニナル」「わたしはどうして松笛くんを好きになったんだろう?」でした。
恋愛対象とは一つの謎ですが、しかしそれは「ヴェールがかかっている」とか「まだよく分かっていない」という意味で分からないのではありません。むしろ、その理を解明すること自体がその存在を裏切るような仕方で「確かなもの」なのです。
そういう意味で「そういう人だ」としか言いようがない、ということです。

そして、定例の儀式となる「よだれを舐める」行為ですが、これによってあるイメージや相手の感情が伝わる展開がしばしば描かれます。これも神秘的交感と言うに相応しいものでしょう。


もっとも、長く続けば変化は付き物で、最近は「謎」や神秘的な雰囲気は薄れている感も強いですが。
おそらく、この端緒は以外に早く、美琴および明のクラスメイトである上野と丘の存在にあります。
上野と丘も付き合っていて、二人がキスしているのを見てしまったのを皮切りに、上野(男の方)のノロケ話を聞かされることが明の刺激になる、というのもあるのですが、何より、2巻で丘(女の方)が美琴の友達となり、さらに二人の女子同士の間にもよだれによる神秘的な絆が生じます(同じ場所に怪我が生じるという「聖痕」的な描写までありました)。
カップルとして先に進んでいる同性との関係は美琴にも刺激を与え、彼女からもまた「普通に恋愛に興味を持つ」女の子としての面を引き出すことになります。


ところで、私は『ディスコミュニケーション』からの連続性を何度か強調しましたけれど、この作品もそうすんなり成立したわけではなかったようで、3巻ののあとがきでは、元々「伝奇的恋愛もの」という構想だったとあります。

(……)そこに編集部からのクレームがつきました。「少年と少女が出会う物語で、『古事記』の伝説のようなオカルト的要素は必要なのか? 思春期の少年にとって、少女とは、少女であるということだけで神秘的で、とてつもなく謎めいた存在なのではないか?」というものでした。そのクレームを受けて、「ピン!」と来て、悪戦苦闘、紆余曲折の末に生まれたキャラクターが、上の絵に描かれた「卜部美琴」でした。
 (植芝理一『謎の彼女X 3』、講談社、2008、p.194)


結果はむしろ氏の漫画家業初期からのテーゼに忠実に見えるから不思議なもので(『古事記』に取材した伝奇、という話を見て相変わらず京極夏彦が好きだな、とも思いますけれど)。

それと、この3巻巻末には「もしも椿と卜部の性別が逆だったら」というif短編が載っていますが、しかしそもそも『ディスコミュニケーション』は女の子の戸川安里香(とがわ ありか)の方が主人公で、謎の少年・松笛篁臣(まつぶえ たかおみ)との恋愛を描いていたわけで、実は存外穏当な仮定なのではないか、と。
こちらの場合、松笛は実際に人間ではないことが示唆されていて、冥界へと旅をしたり様々な異形と出会ったりと縦横無尽でしたが(その分、雰囲気の変化も著しい)……
冥界を旅し、「もしも」のパラレルワールドを単行本5~6冊に渡って旅して、結局「わからないから」「この松笛くんが好き」という基本に帰って来る冥界編のストーリーは素晴らしいものだったと思っていますし。


『謎の彼女X』は(アニメ化に合わせて?)ノベライズも刊行されているのですが、それはまたの機会に。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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