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続・『おおかみこどもの雨と雪』

映画『おおかみこどもの雨と雪』において、花は東京のはずれにある国立大学(一橋大学)に通っていた女子大生時代から一貫して知的な人物として描かれています。
おおかみおとことの出会いも彼がモグリの学生として聴講に来ていた講義、彼を最初に連れて行く場所も大学の図書館です。
デートは大学の図書館から――なかなか魅力的ではありますが、ここに知への含意を見て取らぬわけにはいきません。
真面目な学生である花も、おそらく大学教育を受ける機会なしにトラック運転手として働いていたおおかみおとこも、共に強い学びへの意志を持った人物であったということです。

子どもを持ってからは、病院にもかかれず人にも相談できない状況下で、育児についてと狼について、両方を本で勉強し続けています(家にある本棚に並んでいる本も、年月の経過とともに少しずつ変化していくのが丁寧に描かれています)。

結局、彼女が座学だけでは対応しきれずに人に相談している描写は、雪がシリカゲルを飲んでしまった時に(小児科と獣医のどちらに連れて行くか悩んだ挙句)電話で病院に相談している箇所と、農業で韮崎たち村人のアドバイスを受けている場面くらいではないでしょうか。
さすがに農業に関しては自力では成功せず、苦労していますが、裏を貸せばそれ以外はほとんど本で学んだ知を実践に移すことに成功している、恐るべき知の人です。

むろん、「おおかみこども」という秘密の事情ゆえに、経験知を持った人に相談できない事情を考えれば、独力で学ぶという展開するにするより他なかったのは理解できます。知的な女子大生という設定も、そこから逆算されたものかも知れません。
しかし、ここには同時に知の理想も描かれていないでしょうか。

花がおおかみおとこに出会ったのが、小説版によれば「古代思想史」の講義であり、映画では先生が少なくとも2回以上に渡ってソクラテスの話をしているのも偶然ではないでしょう。

プラトンの対話篇『プロタゴラス』におけるソクラテスの言葉について、藤沢令夫氏はこう指摘します。

(……)ここで一つ気づかれる点――これもプラトンの描くソクラテスの特色を示す点――は、問の主題である「知」を表す原語が、(……)ずっと「エピステーメー」(標準訳は「知識」)であったのが、最後にあっさりと「プロネーシス」(標準訳は「思慮」)に同義語として置き換えられていることである。その前の無知の知についての記述では、名詞形の「知」は「ソピアー」(標準訳は「知恵」)であった。テクストではこれらの語はすべて同義語として、相互に置き換えられるように使われているのである。さらにまた「テクネー」(標準訳は「技術」)も、「エピステーメー」とほぼ同義に用いられている(……)
 (藤沢令夫『プラトンの哲学』、岩波新書、1998、pp.45-46)


ソクラテスにおいては理論と実践は一つでなければならず、「知識はあるけれどできない」のは知ではありません。
もちろん、つねに過たずに「実践できる」人などいません。それゆえに、いくら学ぼうが神ならざる人は真の知者たりえないことを知ること、それこそが「無知の知」です。

花は迷い、考えを変えている描写こそありますが、決定的に「過ちを犯した」として扱われている場面はほぼなく、机上の知識と実践を結び付けること、人間としての限度を超えたレベルで成し遂げていると言って良いでしょう。
理想の母は、理想の知の体現者でもなければならなかったのです。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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