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「得意/苦手」の偏見

(直接続きでなくてもいい気がしますが、一応「得意/苦手」の失効の続きです)

デッサンの時に、透明な板に方眼を引いたデスケルと呼ばれる道具を使うことがあります。
紙の方にも方眼を引いておき、このデスケルを通して対象を見て、対応する方眼を手がかりに写せば形は正確に写し取れるという訳ですね。ルネサンス期に遠近法が使われるようになった頃から、「見たまま」に対象の形を写すべく、こうした道具は工夫されてきたようです。
(その様子を示した――当時に描かれた――図はよく見かけるんですが、肝心なときに見付からないので描きました)
遠近法で描いている様子
当初は建物の模型のようなものを描く場合、対象と決められた一点との間に糸を張って、やはり固定された枠内を通過する点を描きとめる、という方法もあったようです。3次元の対象を2次元の面に移し変えるという遠近法の原理そのものですね。
遠近法の原理

ところが、確か今年の正月番組でイタリア・ルネサンスを扱っていた時だったと思います。この方法が紹介されると、こう言った人が。

「そんなことしなくたって出来る人は出来るはず」

とんでもない誤解です。例えば中世の絵画は遠近法を使っていない訳ですが、これは中世1000年間に渡って、「遠近法的に描く」才能を持った人が1人も生まれなかったせいでしょうか。そしてルネサンスになると、そうした才能の持ち主が生まれるようになったと。明らかにこれは不合理です。
もう1つ、中世にも「遠近法の才能の持ち主」はいたが、評価されなかったという可能性はあります。しかし、「中世の画家はやっても評価されないからやらなかったが、(ルネンサンス以降の絵画教育を受けなくても)遠近法で描くこともできた」とか、あるいは「中世の『絵の才能』とルネサンスの『絵の才能』は全く別物で、中世の画家がルネサンスに生まれてルネサンスの絵画教育を受けても凡人だった」と考えるのは無理があります。

しかし何より、ここには見過ごしがたい偏見があると思うのです。それは「できる奴はできる、できない奴はできない」という偏見で、要するに「その人の本質は元々そういう風で、変えようがない」本質化の発想です。(※)
これは「奴らは奴ら、我々は我々、本質的に違うんだから、仲間にはならない」という差別の発想に通じるものです。

そもそも、多くの苦労を重ねて達成したことを「できた以上才能があったんだ。才能があったんだら苦労なんかしてないはずだ」という言われる辛さを、少しは考えても良いかと思います。

もっとも、このまで書いて思いますが、これはそのまま「お前はできない、才能がないんだ」と言われる立場に置き換えても通用しますね。いえ、そちらの方がいっそう問題でしょう。先日の記事では「『自分はできない』と思っている人」に苦言を呈するような言い方をしてしまいましたが、私ももう少し慮るべきだったかも知れません。

ここでもう1つ別の例を考えてみます。「自分は働くのに向いてないから、働かない」と言ったらどう思われるでしょうか。「今の若者はそういう勝手なことを言って働かん。けしからん」という非難が聞こえるようです。
しかし、実はこれは私自身、近いことを思っていたことがあります(「働かない」と決め込んではないにせよ、「まともな仕事」に就くのは無理だと思い込んでいましたね。さらに、アルバイトを3日でクビになったことでそれはいっそう明証されたと思いました)。
こう言うと一気に自己弁護のように聞こえて来ますし、そう思われても仕方ないと思いますが、別に怠けているつもりではありませんでした。そして他人に関しても、「『どうせ自分はできない』という無力感を感じていて、やらない」というのなら、分かる気もするのです(他のニートの人達も同じように思って働いていないのか、あるいは勉強しない人達も同様に考えているのか、それは分かりませんから、「分かっていない」可能性も大ですが)。
しかしこれは間違っていたと思います。働くのに必要なことは「働くのに向いていること」ではないということが、全く分かっていなかったのです。(だからと言って、今の私が勤勉な人間になった訳ではありませんが)

※ この「本質化」という言葉とそれに関する分析は犯罪学者ジョック・ヤングが『排除型社会』で使っていたものです。ヤングが言っている「他者の本質化」「社会的排除」というのは異なる社会階級・文化、それに人種や民族に対するもので、こうして個人レベルの話に敷衍するのには異論もあるかも知れません。しかし基本的な心理は同じだと私は思います。
                           (芸術学2年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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