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犯罪群像劇――『クロクロクロック1/6』

何だか最近、自分には機械を壊す才能があるんじゃないかと思うようになりました。
先代のデジタルカメラ等、2回壊れました。今でも壊れっぱなしです。これは物理的にレンズ部分が変形する故障でしたが、別のデシタルカメラももっと精密機械に関わる故障をしました。父もこんなことは経験がないとのこと。
PCにしても、やたらと動作が遅くなる等(色々整理しても直らず)の不具合が多発する原因は定かではありません。

その内、漫画のように機械に火花と煙を上げさせることもできるかも知れません。ありがたくない才能ですが。

 ~~~

そんな前置きはさておいて、新作ライトノベルです。

クロクロクロック1/6 (電撃文庫 い 9-25)クロクロクロック1/6 (電撃文庫 い 9-25)
(2012/08/10)
入間人間

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大作『アラタなるセカイ』(10月発売予定)の仕事ゆえか、デビュー以来先例のない沈黙を見せていた入間人間氏ですが、『トカゲの王』の3巻に続いて2ヶ月連続の刊行と仕事ペースを戻してきています(しかし、やはり8月に刊行を予定していた別の新作は本作のあとがきによれば「あまりにもつまらないのでボツにした」とのこと)。
今回は久々に公式のあらすじを引用してみることにします。

(1)黒田雪路──二十代前半の青年。殺し屋。拳銃の持ち主。依頼を受けて、女性陶芸家の暗殺を企み中。
(2)岩谷カナ──大学六年生(誤植ではない)。駄目人間。拳銃の持ち主。働くために外出中。
(3)首藤祐貴──高校三年生。気になっていた片想いの相手の跡を追いかけ中。
(4)時本美鈴──小学六年生。顔立ちが整った少女。拳銃の持ち主。『嫌いな人』ランキングの六位を殺そうと街を徘徊中。
(5)緑川円子──陶芸家。頭には常にタオルな妙齢の女性。年齢不詳な、金髪青スーツな弟子と、個展会場に向かい中。
(6)花咲太郎──ロリコンな「閃かない探偵」。依頼され、なくしてしまった拳銃を捜索中。
六丁の拳銃を巡って、六人の運命が、今転がり始める。衝撃の祝祭の幕が開いた。


さらに目次を見ると、

1/6
プロローグ
一日目


とこれだけ。一日目というからには二日目以降があるわけで……電撃文庫の公式サイトにあったあらすじでは最後の「衝撃の祝祭の幕が開いた」という一文が無かったということもありますが、ここまで見てようやく、これが続編の存在するシリーズで、タイトルの「1/6」は巻数であることに気付きました。
あとがきでも「全六巻予定」と明言されています。
売り上げ次第で続きの有無が決める面の大きいライトノベルという世界で(ある程度地位を確立した作家ならば自由度が大きくなるとは言え)、完結まで6巻もの巻数を最初から定めているのは、管見の限りでは他に知りません。小説・漫画・アニメ同時展開の『アラタなるセカイ』といい、相当のことができる立場になってますね。
続編を書くのは苦手と公言し、実際シリーズが続くと大きく雰囲気を変えることの多い入間氏ですが、今回は長編の全体構想を最初に決める手で来たのでしょうか(どこまで予定が確定しているかは不明ですが)。

そろそろ内容に入りますが、本日発売ですし、若干のネタバレを含むので追記にて。

私は最初このあらすじを見た時、「六丁の拳銃」というのに何かミスリードが入っていて、京極夏彦氏の『邪魅の雫』のように共通の凶器――拳銃が登場人物たちの手を流転する話かと思いました。
しかし読んでみると、プロローグで拳銃の密売人が登場し、その日六丁の拳銃を買い手に引き渡した旨が述べられており、拳銃は確かに六丁存在します(実はロシアンルーレットよろしく、売人の手違いでモデルガンが一丁紛れ込んでいますが…)。
ただし、あらすじにある六人の主要登場人物には「拳銃の持ち主」もそうでないものもいます(ただし、ここに持ち主を書かれていないから拳銃を持っていないとは限りませんが…)、「持ち主」の中には他人が落とした拳銃を拾った者もいたりと、事態は中々に錯綜しています。
少なくとも、この1/6巻では拳銃は(おそらく)四丁しか登場していません。

入間氏はミステリ要素の追求も続けており、それで『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』のような傑作も物していますが、本作がどこまでミステリとなるのか、現段階では定かではありません。今のところ何が起きているかは明晰で、叙述トリックの類が入り込む余地も今のところなさそうに思えますし……
仕送りも打ち切られたひきこもり大学生のカナがなぜか生活していけていたり、『みーまー』8巻にも登場した「金髪青スーツ」の怪人物こと新城雅貴が謎の意図をもって行動していたりと色々な謎はあり、それが主要登場人物6人とその周辺の密接に入り組んだ相互関係に関わっていることは示されていますが、謎の答えそのものは何の伏線もなく提示される可能性もあるわけで、ミステリ的なフェアネスを感じさせる展開になるかどうかは分かりません。


しかし、犯罪小説としてはすでにかなりの可能性を感じさせます。

入間氏の作品の中でも、たとえば『みーまー』の犯人は多くの場合、著しく倫理観が欠如していて、「なぜそんなことで」と他人にはまったく理解しがたい理由で人を殺したりする人物でした(主人公を含め他の皆もまともでないおかげで、「異常=犯罪者」という等式は緩められていましたが)。他方、『花咲太郎』や『トカゲの王』には殺し屋、つまり職業的犯罪者が登場します。彼らの中には「仕事では平然と人が殺せるけれど、それ以外は普通」という人もいます(それどころか『トカゲの王』のトンボのように、極端に感受性の強く殺しの嫌いな殺し屋まで存在しました)。
本作はあらすじにもある通り、殺し屋から「嫌いな人」をあっさり殺そうとする少女まで両者が混在する群像劇となっており、さらに第三のタイプも登場します。

 そうして挑み続けてきた結果、祐貴は他の同級生よりも『才能』の壁を知っている。努力ではどうにもならない特別なものが人にはあり、それが人と人との間に隔たりを生む。あらゆる争いには才能の優劣が関わり、また動機のすべてであると祐貴は思いこんでいた。
 そう信じるのは、もう一つの理由があった。
 首藤祐貴には奇妙な縁がある。
 彼は才能ある者と巡り会うという、奇縁に恵まれていた。
 幼稚園に通っていた時からそれは発揮されていた。彼の友人は皆、幼少期から類い希な才能を発揮して注目される者ばかりだったのだ。(……)祐貴は己の運命がそういうものであると悟った。祐貴自身に才能はないが、才能と出会うことはできるのだと。
 無論、本人にとってはまったく歓迎できないことだ。(……)
 (入間人間『クロクロクロック1/6』、角川書店、2012、p.38)


 才能によって生まれる小高い壁を乗り越えられるのは、その才能を持った者だけなのだ。よじ上っていくら祐貴を見下ろしても、祐貴はその壁を越えて友人の手を摑むことはできない。
 (同書、p.109)


才能の壁ゆえに疎外感と孤独に苛まれていた少年がさらに、想いを寄せていた幼馴染の女の子との間にも、気が付けば決定的な距離が開いていたことを思い知る――
幼馴染という(少なくともオタク文化においては?)幻想を込めやすい設定やら、ただでさえ人付き合いの苦手な人間が女の子に近付こうとして気味悪がられるという展開やら、現実的でそれだけに切迫感のある状況を用いて、単にいささか劣等感の強かったという程度の少年が悪意に駆り立てられる様が見事に描かれています。
入間氏らしく素晴らしい人間の弱さと狂気の描写であり、犯罪へと道を踏み外す人間の心理描写としても極上のものでしょう。
1巻の山場となる160-164頁での珍しい文字表現もよく効いた演出でした。

「才能」に関する記述も入間氏の作品に頻出するものの一つで、やはりどうしようもない才能の差というものはあることが強調され、それに劣等感を抱いた人物も描かれます。
ただし、それは才能が劣る者にはできることがないということではないし、そもそも才能がつねに人を幸福にするものとは限らないことも描かれています。
とすれば決定的なのは、才能がないことではないでしょう。

(……)悟ったフリをしながらも祐貴の根底には、自分だけがこの世の『特別』であるという考えがあった。人として当たり前にあるそれが、祐貴に現実を認めさせない。自分はなんだかんだでもっと上手くいく人間であり、こんなことで躓いてなにもかも終わりになることを受け入れられない。
 (同書、p.189)


問題は、才能がないという現実に対する態度の取り方なのです。現実を受け入れず全能感を保持しようとすることが悪意の始まりです。

他方で、人間が決定的に犯罪という行為に踏み込むきっかけとしては、やはり拳銃という「力」も重要です。
その意味で、上で挙げた『邪魅の雫』における「雫」のような、人間にいわば“取り憑いて”道を踏み外させるものとしての拳銃という面も、本作に描かれているのは間違いないでしょう。
犯罪という行為に踏み込んでしまう(しまった)様々なタイプ(氏の作品においてはあまり例のない、ある意味現実的な人物を含む)の人間を、拳銃という「きっかけ」を切り口に交錯させる――その設定に「犯人を描く」小説としての大きな可能性を感じます。

 ―――

入間氏は名古屋近辺の出身者らしく、よく地名や駅名を登場人物の名前に使いますし、作品によっては具体的な地名を示していることもありますが、本作はとりわけ舞台が「名古屋駅」周辺であることが明言されます。
六人が一時的に勢揃いするクライマックスの舞台は名古屋駅の金時計です。


地の文は六人のどのパートでも基本的に文体の変わらない三人称で、心理描写も上記のように、どちらかというと「神の視点」から登場人物の心理を説明するのがメインですね。
「ぼくはロリコンだ」と堂々と語る花咲太郎のあけすけなモノローグもないのは寂しい思いもないではありませんが…

イラストも豊富で使い方も良いですね。カラー口絵では六人の主要人物が一通り描かれていますが、花咲のみはシルエットで表紙絵もシルエット……彼は左氏のキャラということでしょうか…?

他作品の登場人物の出演も相変わらずで、そもそも花咲太郎は別のシリーズで主役を張ったキャラであり、上記の通り金髪青スーツの男も『みーまー』8巻以来の登場人物ですが、その他にみーくんと妹もゲスト出演、また『花咲太郎』シリーズの殺し屋・木曽川も名前とメールのみですが登場しています。


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(2012/10/20)
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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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実名での仕事
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